もんしぇん
山本草介監督の作品です。 「もんしぇん」上野の国立博物館の中にある、一角座という映画館で上映されています。まだ28歳という若い監督で、天草の小さな入り江から生まれた映画だ。
好きな、平戸や生月島の事も出てくる。向こうに住もうかと考えて、本気で計画したぐらい、惹かれるところがある島だ。山本監督も、向こうに長く住み込んで撮ったという。ただ、水平線だけの映像が出てくるけれど。あの空気は確かに、あの辺りの水平線で、小田原の水平線とはぼやけ方が違う。あのぼやけた、海を撮ろうという感覚は、住んでいないと見えてこない、ものじゃないかな。
ネット配信もされているようだけど、できれば一角座に出かけてみるのが好い。あの妙に権威的な博物館の裏に、こんな映画館が出現していたとは、全く驚きだ。高校生の頃、博物館に毎週のごとく、通った時期がある。同級生だったI君の叔父さんが学芸員で、裏から行くと、無料で入れてくれたのだ。印象の強いのは、ミイラぐらいで、あとは仏像を見ていたぐらいなのだが、無料で入れてもらえるというのが魅力で、裏口から通った。
その裏口が実は、一角座に変わっていたのだ。よく見ると建物もいろいろ変わって、正面以外は随分変化していたのだが、映画館がこんなところにあるのはおどろく。建物は何ともこの場には違和感のある。仮設のような建物で、そう古くは無いが、一年ぐらいのものか。客席は、広くは無い。200人ぐらいの椅子かな。不思議な感じで、一見の価値はある。入場券で、博物館も見れるというのだ。やはり裏口入場かな。
若いスタッフが、炎天下、案内に立ってくれている。この映画にかける思いが、ここで強く、伝わった。若い人達が、炎天下出迎えようという、本気で何かを作り上げる姿で、期待感が高まった。
美しい映画だった。詩的な映画。古い幻燈写真を見るような。懐かしい感性の映画だ。この場所はあそこだな。この角度から、絵を描いた事あるな。そうだ、絵のよな映画だ。ストーリーもあるのだが、なくてもいい。無いほうが伝わってくる本質というものもある。と言って軽い映画というより、重い映画だ。生きる重さを色々の角度から問いかけているのだが、問い方が美しい。
主演女優は玉井夕海という人で、これはすばらしい。不思議な感覚を生み出していて、哲学的というか。若い人でこう難解な人は珍しい。いや、案外最近は多い若い人の表面柔らかく深く難解。そうだ、今の若い人の難解さを代表しているところが、さすが女優だ。希薄な存在感が生み出す不安をリアルな、調子で表している。思い入れを感じさせない、日常的なリアルさが、複雑怪奇と共存している。
山本監督の父親は彫刻家の山本良明氏だ。金沢の頃からの友人で、先日は、一緒に「9条の応援歌展」やらせてもらった。山本さんの作った。冬瓜の石彫が今も目の前の机の上にある。山本さんが、親ばか覚悟で息子を応援すると言われていた。