「小さな田んぼのイネ作り」 苗取り ⑥

   

この文章は私の書いた「ちいさな田んぼイネ作り」という本の実際の所を、分かりやすく実践してみてもらおうという事だ。この本は5月30日に農文協から、発売になった。自給の為の稲作法である。実践をしながら、確認してもらうための田んぼである。文章でわかりにくい部分があれば、小田原の田んぼで確認してもらえるようにしている。本の捕捉になるような事も書いている。ただやはり本を買っていただき、読んでもらえるとありがたい。欠ノ上観音堂から南の方を見おろせば、旗の立っている3畝の田んぼである。
田植えの直前に、苗取りを行う。苗は5,5葉期の両側に分げつが出始めていて、3本になった苗が理想である。苗取りはただ苗を抜けばいい訳ではない。苗は慎重に扱わなければならない、丁寧な作業になる。何故かと言えば、本来稲は移植されるようなものではない。栽培の都合で、苗床で苗が作られている。それを本田に移植するわけだから、その影響で成長が滞ることを最小限にしなければならない。5,5葉期の苗を移植するのは、一番移植の影響を受けにくいからである。勢いのある成長のスタートに立っているのが5,5葉期頃である。一番勢いがある時期だ。田植えした苗が、1週間後に6葉期になっているような滞りのない苗取りをしなければならない。苗の最も大切な部分は、株の根元である。葉っぱや根の先がちぎれても影響はほぼない。しかし、株の根元を痛めてしまえば、この先の成長に大きな影響があると思って間違いない。
 
株の根元には新しい根が出てくるもとになる細胞がある。そして、新しい分ケツを育てる細胞もある。この重要部分を揺さぶったり、押しつぶしたりすれば大きな障害になりかねない。根の半分より先は切れてしまっても構わない。葉っぱの3分の1は切れてしまっても構わない。根本、株基が重要なのだ。何があってもこの根本だけは大切に扱わなければならない。機械植えの田植えでは、わざわざ葉や根を切る場合もある。だからといって苗はぞんざいな扱いでも大丈夫だと考えてはならない。田植えをして翌朝活着していなければ、苗取りに問題があったと考える必要がある。活着のしるしは朝の葉先の露である。1週間後に6,5葉期になっていなければ、苗取りが粗雑だったことが原因している可能性が高い。1か月後の9葉期に分げつが20本を超えないようならば、この苗取りに原因することが、多々あると考えなければならない。機械植えの田植えの場合、一度停滞してから成長を再開する。しかし、丁寧な苗取りを行えば移植の影響が全くないような成長になる。根の土を洗う事はしてはならない。野菜の苗を植え付けるときに、わざわざ根の土を洗う人は居ないだろう。
 
苗取りは小さな田んぼ(3畝)であれば、早朝から苗取りを2時間かけて行えるはずだ。そして、引き続きその日一杯で田植えをする。田植えに関しては改めて書く。田植えの2日前から、水を抜いておくことを忘れないようにしなければならない。田んぼはアラオコシをして、代掻きをして、その後水を満杯に貼っておく。水のある間に、均しをして、畔塗をする。畔塗は、田んぼの側面に土を塗りつけることだ。土を塗れば水漏れが少なくなる。水の洩れない田んぼであれば、薄い畔塗でも構わない。畔巾が1メートル以上あれば、水はまず漏れないので、畔塗は行わなくても大丈夫だ。均しは水を数日張っておいて、土が柔らかくなったところで、トンボ(トンボとは土均しのT字型の道具である。野球などのグランド整備のものと同じである。)で土の凸凹を均してゆく。全体としては、入水口よりわずかに排水口が低いように均す。3畝ならば、1㎝の高低差に収まるようにという人がいるくらい微妙だ。入水口を止めて、排水口を開ければ、田んぼのすべての水が抜ける状態が理想である。これは水を張った時にしかわからないから、代掻き後に、水位を見ながら丁寧に行う。
 
つまり、1日に田植えをするのであれば、30日か、31日には水をすべて抜く。一度水を抜くのは、田んぼに田植えの目安になる線を引くためだ。線引きは難しいもので、良い土の状態でなければ、かなり引きにくい。土にはたくさんの緑肥が混ざっている。その緑肥を引っ張ってしまい、線が見えないということも起こる。田植え当日に水を抜いたのでは、地面がトロトロで、線が見えない。苗取りを理想的に行うためには、苗床の代掻きを深く十分に耕し、充分に代掻きをしておくことが大切である。柔らかい苗床であれば、苗を痛めることなく、苗取りをすることが出来る。苗をとった後大切なことは、苗を乾かさないことだ。水があれば必ず水のあるところに苗は配置する。田んぼの均しに5時間かかった。苗取りに2時間。
 
 
 

 - 「ちいさな田んぼのイネづくり」