星乃珈琲店、に行った。

   

塩山桃の花 2号 

先日鴨ノ宮の跨線橋のそばに出来た星乃珈琲店に入った。同じ鴨ノ宮市場の中に、遠藤種苗店がある。そばにはコロナノ湯もある。それで時々そのあたりには行くのだが、市場全体は時代離れした感じがあった。そういうのを嫌いではない。しかし、「土曜の市場は面白い」というのが売り文句で看板が出してあるのだが、土曜日に行ってみても、何が面白いのかは分らなかった。市場全体は、公設市場の様な感じがあって、戦後の物不足時代に出来たものが残っているのかもしれない。箱根湯本の洋食屋さん「スコット」のビーフシチューの美味しいお店が市場にもあったのだが、それも止めてしまった。豆シバを売りにしている犬屋さんもある。この店には中々いい豆芝犬がいる。しかし、それでも大きいシバ犬をやっているマニアに言わせると、あれは邪道だと憤慨していた。何が邪道だか私には分らないが、たぶん、豆をスタンダードに比べて、邪道と言うのだろう。イギリスでは、大きさ別にジャンル分けは普通のことだが。ともかく、柴犬のレベルの上がったことは、私の子供の頃の比ではない。

その犬屋さんの上には、ダンスホールがある。ダンスホールと言っても今風営法で話題になっているような、クラブと言うような今どきのお店ではない。社交ダンス教室とも書いてある。どちらかと言えば年寄り向きなのだろう。このお店には時々、いつパーティーがあります。2400円とか書いてある。もうあたりは小説にしたくなるようなお店ばかりだ。鶏肉屋さんもあるのだが、そこのおやじさんは、何故か私のことを知っていて、お宅の奥に居た鶏屋さん、あの和留沢に居た鶏屋さんは山北に越す前には私が肉を買っていたんだ。などと、相当昔のことを、今のことの様に私に話しかけてくる。25年前に山北に来た時にすでに、その人は山北から居なかった。そうそう、その市場の木造家屋には、3階もあるのだ。そこに焼き肉屋さんがあると通りに看板が出ている。一般の人も歓迎と書かれている。そうでも書かなければ、知らない人が入ることなど到底できない。2階をぐるぐる廻って歩いたのだが、焼肉屋さんらしきものはない。怪しげと言ったら怒られるが、そうとしか言えない様な階段があって、そこをさらに恐る恐る登ると、カウンターだけの定食屋さんがあった。どうもそこの焼肉定食が表に出してある看板の理由らしい。間違っても焼肉屋ではない。と私は思う。悪いというのではない。私はそういう所が好きで、今でも気が向けば行く。

だから、星乃珈琲店が出来た時には、何を考え違いしているのか驚いてしまった。こう言う場所で、女子の為のケーキ喫茶店など、不可能だ。と断言してしまった。店が徐々に出来上がってゆくと、その感違いはひどすぎると思った。90年代風というか、何というか、倉敷の美術館通りにあるお店の、模造品の様な作りが出来上がってゆくではないか。どういう人がこんなセンスをしているのか、よほどの感違いもひどい人に違いないと思った。そういえば、渋沢にコメダ珈琲店とかいうのがしばらく前に出来た。これにもびっくりした。だって渋沢にそういう所に入る人がいるとは思えない。そっちもまだやっては居るのだが、はやっている訳がないと思い込んでいた。分らないが、名古屋の方から来たのではないかと、勝手に解釈していた。何故って、名古屋には不思議な喫茶店文化があると、前から思っていたからだ。状況に合わない喫茶店をみると、名古屋だと思ってしまうのだ。まあ、失礼な話だが、名古屋に行けば必ず入るので、否定している訳ではない。

喫茶店文化と言うものは終わったと思っていた。コンビニで美味しい入れたてコーヒーが飲めるようになれば、まさか喫茶店に入る人がいる訳もない。こう考えていた。所がである。始めて入った星乃珈琲店は大繁盛だ。満席と言ってもいい。ベンチで待つ人もいる。ほとんど女性客である。想像ではスフレケーキという奴ではないか。なにしろ頼むと「20分かかるがお待ちいただけますか」と来る。私には到底お待ちできないので、食べなかった。確かに周りのみんな食べていた。実にうまそうに出来ている。安くもない。800円とか確かした。値段も私が食べなかった理由の一つである。それならと思って、ハッシュドビーフオムライスと言うのを食べた。昔風で美味しかった。そこに時代について行けない自分がいた。昔はこれからはやりそうなものはすぐ分った。まさか、こういう喫茶店が商売繁盛とは思いもよらなかった。たぶん色々のことに、そういうことになってきたと思わなければならない。

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