TPPも土壇場
瀬戸内の漁村 10号 瀬戸内は土の色が関東とは違う。ゆったりした歴史を感じる土壌だ。どんな小さな入り江でも、村上水軍が出てくるのだかと思ってしまう。
オオストラリアとのEPA経済連携協定について大筋で合意した。日本政府は、オーストラリアから輸入する牛肉の関税を50%以上引き下げることと引き換えに、自動車の関税を5%引き下げることとなった。オーストラリアと韓国の間でも同様の、決定が行われた。日本政府はTPP交渉に於いて、アメリカの妥協を引き出す交渉材料が出来たとしている。オーストラリアとの交渉で分るように、日本の畜産農家に我慢をさせて、日本出身のグローバル企業の活動を応援しようという作戦なのだ。安倍政権は目覚ましい第3の矢を放つ事が、1年経っても少しもできない。やる気もないのだから、出来るはずものない。やっていることは既得権への垂れ流しに近い優遇政策だけなのだ。第3の矢というような、新しい産業を興すような冒険心はみじんも感じられない。大企業の企業業績が上がれば、自分の役割は十分と考えているのではないか。財政出動も、空前の規模である。しかも、相変わらずのコンクリート型である。
法人税をもう少し下げて、国際競争力を高める協力をしようと今度はしている。日本の法人税が高いから、日本の企業の国際競争力が下がっているというのは嘘だ。企業と国家の関係は、教育から、医療制度、社会福祉、周辺整備まで、総合的なものである。税率などほんの一部のことだ。一貫して企業が良くなれば、税収も増え、景気も良くなる。そうすれば財政の健全化も自然と修正されてゆく。こういう主張のようだ。韓国がやってきたやり方を真似ようということだ。実はこれには2つの問題があると考える。一つは、国民に所得格差が広がる。老齢化と労働人口の減少という中で、必要な社会福祉税は増大している。そのために消費税を10%にしようとしている。国民からは、復興特別税も取り続けている。しかし、法人からは免除し、しかも、法人税率は下げようというのである。どうも安倍氏の頭の中には、日本出身のグローバル企業が自分と一体化しているような、認識なのではないか。集団的自衛権の見直しの本音も、世界企業化した組織の安全の確保には、どうしても必要という認識なのだろう。
しかし、グローバル企業という、世界の仁義なき戦いの中に存在する企業理念が、安倍氏の考えているほど甘くはないと思う。トヨタが日本を捨てる日だってないとは言えない。それは法人税が高いというような問題ではないはずである。むしろ日本という国の国家的構造ではないか。日本がまっとうな国でなくなれば、日本に居ることによるリスクが高くなる。日本のグローバル企業が国際競争に勝つことに、すべてを託しているのが、安倍氏のやり方だ。政府の力によって、新しい新産業を興すというような、国家戦略を持とうとしない。そういうことも既得権を必ず阻害するからだろう。再生可能エネルギーよりも原発にこだわるのも、既得権こそ大事という信条に従っているのだろう。保守的と言えばいえるのだろうが、農業には冷たい。大規模化、国際競争力との掛け声は、稲作農家がこれからつぶれていく姿に対して、努力不足と先回りしていい訳をしているだけなのだ。
TPPで現在残る問題は米に対してアメリカが、関税をどの程度認めるかにだけなのだろう。牛肉ばかり注目されているが、問題はお米である。基本的な食料に関して、国家安全保障上の枠を設けることは、国際ルールとして、当たり前のことだ。これをTPP交渉の中で主張しないことがそもそもおかしい。実は、TPPを受け入れるということは、日本の経済が、グローバル企業のものに成ってゆくということを受け入れることになる。例えば、インフルエンザワクチンの備蓄政策など、製薬会社の世界戦略にはめ込まれているだけのことだ。こういうことが、これからどの分野の問題にも登場してくる。その内嫌でも遺伝子組み換え食品を食べざる得ないことになる。国としては、日本は今後立ち直るようには到底思えない。こうなると、苦しいことだが、自分あこういう悪条件の中でどう生き抜くのか。そして日本の農文化をどう継承して行くのか、そういうことを考えるしかないような、気分だ。