シリア危機
シリアの内戦は極めて深刻である。アサド政権が国民に対して、暴虐を振っていることは確かなようだ。国連もロケット弾によって、無差別にサリンが使用されたことを確認した。シリア政府もサリンの保有は認めている。そして反政府勢力と言っても一枚岩ではなく、民族的にも、宗教派閥的にも様々なようで、何が起きているのかさえ、明確にはわからない。その中で、アメリカのオバマ大統領はアサド政権が国民に対して、サリンを使ったことを理由にして、ミサイル攻撃を行い、サリンのような化学兵器を使えば、どういう結果になるかを、制裁攻撃の必要があると、主張している。ロシアは、アサド政権が化学兵器を放棄させることに、外交的に進めることに成功しそうである。2つの大国を較べるとロシアという国のしたたかさと、プーチン大統領の能力の高さが目立つ。アメリカの軍事攻撃を材料として、上手く外交交渉を進めているように見える。まずはひとまず、アメリカの攻撃がなさそうなことだけは良かった。武力で、制裁を行ったところで、自国民に対してサリン攻撃をするような人間が、反省をするとは考えにくいだろう。
と言ってアサド政権を壊滅させるほど、アメリカが軍事介入したところで、ベトナム、アフガン、イラク、の二の舞三の舞になるだけだろう。結果を見てみれば武力攻撃で解決できることなど何もないことがわかる。軍事力というものは、防衛的抑止力として意味はある。つまり、軍事力の背景に自国民が存在して状況では、武力は意味がある。政府と国民が一体化しているときに、初めて軍事力は意味を持つ。外国に対して軍事攻撃を行う場合、反政府勢力が居たとしても、その反政府勢力がどこまで当てになるものかは疑問である。その反政府勢力が、アメリカの軍事力を背景として政権に就いたとしても、状況が変わるのではなく、新しい反政府勢力が誕生し内戦は継続する。もちろん、一時的な意味で、国連軍のようなものが、仲裁を行い、国民に対する暴力行為を止めなければならないという場面はあるだろうが、その国の政治にまで介入し、統治するというようなことは不可能と考えた方がいい。
サリンにより、人が殺されるなどあってはならないことではあるが、軍事介入して何かが解決できるとは考えない方がいい。ロシアが行ったような外交的解決法は画期的だと思う。同じようなことを中国のような国が、北朝鮮のような、制御の利かない暴力的な国家に対して行えないのかと思う。日頃の外交方法の問題なのだろうが、中国がなぜ、ロシアのような役割が果たせないのかが、不思議な気がする。したたかな中国に、北朝鮮の核武装を断念させる、能力がないとは思えない。中国は北朝鮮という国を切り札に使おうと考えているのだろうか。いずれにしても、この間の日本政府には憲法に定められた、国際紛争を平和的手段によって解決するということは、やろうともしないし、出来るような基盤もない。
軍事力というものの意味を考えるべきだ。シリアの内戦のような事態は、武力が国内向けのものであることを示している。日本の自衛隊の武力も、国内にも向けられていることは自覚しておくべきだ。民主的な日本という政治体制を覆すためには、自衛隊の武力が必要だと考える人はいる。三島事件が茶番にしか見えなかったことは良かった訳だが、国民向けに自衛隊を使いたいという勢力はある。今検討されている集団的自衛権の解釈の変更が、シリアへの軍事介入というような、暴虐な内政に対して、制裁を行う軍事攻撃に参加することになりかねない。自衛権の拡大解釈など、無理やり行うことが日本の安全保障に対して、意義が存在するとは思えない。こうしたアメリカの圧力はアメリカの一部の勢力の圧力である。イギリスも、アメリカも、議会が軍事攻撃を抑制したということはこれからの政治的意味は大きい。