アベノミクスが危うい
株価は上がり続けていたが、反転急落を始めている。円も怪しい。当然のことで、実質経済の伴わない、為替の変動だけでは何も変わらない。安倍政権が打ち出す経済政策は、過去のやり方を復活させようとするだけで目新しいものはない。意欲的なものも感じられない。農業分野でいえば、懐かしい池田総理の所得倍増論がまた出てきたような感じだ。農産物の国際競争力が強調されても、誰も信じない。こういうことから株価は下がり始めたのだ。安倍氏が登場して3つの矢を打ち出すことを宣言した。金融緩和、財政刺激、経済成長戦略である。金融緩和は日銀総裁が、白から黒に代わって実行されている。財政の刺激はかつてない予算規模を組んだ。この2つは誰でも出来る口先のことだ。問題はこの2つの問題先送り策の間に、本当の意味の経済成長戦略を組めるかである。ところが、安倍氏が打ち出した、肝心な経済成長戦略だい3弾がまるでお粗末である。当然のごとく株価はさらに下がった。
『民間活力の爆発』。これが、私の成長戦略の最後のキーワードです。民間投資を喚起する。あわせて人材・技術・資金を生産性の高い部門へとシフトしていく。これによって一人あたりの売り上げを伸ばす。その果実を賃金・所得として家計に還元します。一人あたりの総所得は、10年後には現在の水準から150万円増やすことができると考えている」。ー―安倍氏 じつは自民党内で「真・三本の矢」ともいわれるのが憲法改正、靖国神社参拝、歴史認識の3テーマである。これも我慢して様子見をしているのは、参議院選挙を控えているからである。すべては大勝してからというのが思惑だろう。最近の安倍氏は選挙向きのきれいごとばかり述べている。しかし、株価というものは、きれい事などでは動かない。安倍氏の本質が徐々に暴かれてきているというところではないか。経済政策は1弾が「女性、若者の活用」2弾が「世界で勝つ、企業や農業の活性化」。今回の第3弾「民間活力の爆発」で出揃ったことになる。
「規制改革が成長戦略の一丁目一番地だ」として、電力、医療、インフラ整備など「いわば官業ともいえる世界を大胆に開放していく」と表明。公的ビジネスで民間の活力を引き出す考えを示し「民間の活力こそが(安倍政権の経済政策)アベノミクスのエンジンだ」と強調した。
電力分野で小売りの全面自由化と発送電分離を実施する電力システム改革を進めるほか、環境アセスメントの期間短縮で風力や地熱など再生可能エネルギーの発電施設への投資を促すとした。電力関連の投資を今後10年間で過去10年の1.5倍の30兆円規模に増やすことも掲げた。
医療分野では健康産業を育てるため、健康・予防サービスへの新規参入者を法的に認定する仕組みをつくると言明。健康産業と医療行為との線引きを明確にしてビジネスがしやすい環境を整えるほか、健康保険組合などに病気予防に取り組むよう求めるとした。
一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を巡っては「消費者の安全性を確保しつつ、しっかりしたルールのもとですべて解禁する」との方針を示した。保険外の「先進医療」を普及するため病院の負担が重い申請手続きを国が全面支援することも打ち出した。
インフラ整備では、老朽化する首都高速道路に空中利用権を設けて民間マネーを呼び込む案を掲げた。国家戦略特区では都心の住居を増やすため容積率の規制を緩和。外国人医師の国内での医療行為を認め、インターナショナルスクールを設置しやすくすることで外国人ビジネスマンが家族連れで働きやすい環境を整えるとした。日経新聞より
それぞれに意味はあると思うが、大きな方向性に欠ける。日本の経済をどういう方向に進めるのか。これを示すことが政治の役割である。グローバル経済、TPPへの対応。法人税の考え方。新たな具体的な産業とはどういうものか。これを示すことが政府の役割だろう。ところがインフラの老朽化対策などやらなければならないが、前向きな作業ではない。民間活力が電力や医療の方向の修正程度のものである。全体に目新しさに欠ける。この政策なら日本の経済も変わるかも、こういう期待を抱かせるようなものが無い。それは安倍氏が悪いのではない。そういう日本の、あるいは世界の状況なのだ。規制緩和はもろ刃の刃である。一見経済競争を活性化するように見えるが、薬品のネット販売の自由化を考えればすぐわかる。経済が活性化する訳ではない。むしろ価格競争に薬品も巻き込まれることになる。価格競争は安全性に影響する。薬の許認可を簡単にすべきと言われている。薬品の市場は1兆円。それが、1兆2500万円になるという。そんなことが景気対策であろうか。薬がよく売れる社会の方が良い社会なのだろうか。
農産物の国際競争力強化で、所得倍増。これを経済政策に入れているが、農業にかかわるものとして、ありえないことと断言できる。一部の人の競争力のある地域の、特定の産物ではそういうことはある。農業の総生産額を倍増できるのかである。それが政治のはずだ。この農業分野の競争の激化で、条件不利地域の農村の疲弊はさらに進む。間違いなく過疎化が進み、中山間地は集落が消滅して行く。10年間で小さな農家を淘汰しながら、農民が半減したころ、所得は倍増するという思惑だろう。安倍氏の今の発言はすべて選挙目当てと考えた方がいい。つまり、大半の都市住民がそれを望むという考えだろう。農民は嫌なら止めろ、産業としての努力をしろ。これが国民の本音とみているのだろう。そして、真の3本の矢に進もうとしている。