パチンコ通報条例
すごい条例が出来たものだ。兵庫県の小野市というところの話だ。「福祉給付制度適正化条例」が施行されることになった。パチンコをしている生活保護者を見つけたら、行政に通報する義務を市民に課したというのだ。トントントンからリンの隣組である。恐ろしい時代が近付いていること予感させる事件だ。これは、小野市が特殊なところかと言えば、ごく普通の地域である。市長の意見がホームページに掲載されている。「見守り」社会を目指しているのだそうだ。人口5万人程の町だ。保護世帯が120世帯(人口の0.29%)という健全な地域で何か問題が起きているような街ではないようだ。ごく普通の日本の地方都市で、このような条例が、町議会で圧倒的な賛成多数で作られるという社会的雰囲気があるということだろう。政府の不正受給キャンペーンの結果である。
生活保護費が現状おかしい。それは確かである。新規就農者より、貧乏絵描きより、非正規雇用の人間より、生活保護者の方が、収入が多い場合がある。このことは論議する必要がある。しかし、政府はこのことを問題にする前に、不正受給の問題をキャンペーンした。いかに不正受給が多いのかということは、行政の対応の限界があるということだ。小野市でも行政職員がしっかりしていれば、120世帯に対して、きめ細やかな対応はできるはずである。そんな条例を作る前に、担当職員を一人増やせば済むことである。もちろん市長の本音はそんなところにはない。不正受給が問題ではなく、「見守り」社会を作りたいのだ。それは後で考えてみる。不正受給と、受給者の生活再建とは別問題である。不正受給を切り口に、生活保護費の削減をはかろうというのが、政府の本音である。不正受給を許せないのは、誰しも同じだ。不正受給を無くす直接の責任は行政と政府にある。生活保護受給者の生活再建を、市民に監視させることは問題を悪化させる。
不正受給は担当職員の能力の低下と、人員の不足が第一原因である。地方の行政にしてみたら、人件費の削減も緊急の課題である。小田原市の現状を聞くところでは、今の担当職員数では丁寧な対応はとても無理な状況らしい。個々の事例に接したことがあるが、さまざまな社会的な矛盾を、各人が抱えている。丁寧な対応をしようとすれば、担当者は寝る時間もなくなる。職員の中に良くやられる人がいることも知っている。やらない人もいるのだが、やりすぎる人がどうかと言われることもある。一通りにしておけという空気はあるはずだ。いずれにしろ課題は生活再建である。再建の可能性のある人に出来る限りのことをする。ここに対応するのはむしろ、健全な地域社会ではないだろうか。生活再建のための、農業系のNPO法人にかかわってきたが、再建できたものは自立し、弱者が残ってゆくのだから、法人そのものの経営の限界もでてくる。
地域社会がどうあるべきかということも密接に関係する。小野市市長のいう「見守り」社会である。人間はダメでありたいと思うことがある。堕落したいと思うこともある。そうしたものも含みこんで社会である。勤勉な優等生だけで社会はできていない。ダメだっていいじゃん。こういう部分が必要である。絵を描いて生きているなどというのは、後ろめたい暮らしだ。小野市には窮屈そうで住めない。社会には、猶予部分が必要である。例えば、刑務所から出てもまたやくざに戻る人が、かなりの数いる。猶予部分の小さい社会になればなるほど、そういうことになる。小野市が見守り社会になったとすれば、たぶん若者は出てゆく街になるだろう。生活保護費が無くなれば生きてゆけない人も、存在するのは当然のことである。そういう人が、パチンコに入り浸るとすれば、それはギャンブル依存の病気なのだ。受給審査で把握し、健全化の医療対応をすべきだ。