TPPの農業への影響
国の産業競争力会議に加わっている、楽天の三木谷氏は日本農業は国際競争力がある産業だと発言していた。根拠のある考えなのだろうか。関税を撤廃した場合、コメや砂糖など農林水産物33品目の国内生産額計約7兆1千億円のうち、4割超に当たる2,9兆円が失われると見積もった。影響が最も大きいコメは1兆100億円減る。食料自給率(カロリーベース)は2011年度の39%から27%程度に低下する。これは以前農水省が試算した額よりは少し低い見積もりであるが、それでも大変な額であることを政府が認めたことになる。何をどう変えれば、競争力がついてくるのか。そこを説明してもらいたいものだ。TPPに加入する見返りに、農業対策を打ち出す。しかし、補助金農政と減反が日本農業をだめにした元凶である。また補助金でごまかすのではだめだ。この機会に徹底した構造改革を行うことが先決である。人口の減少、米の消費量の減少。農業従事者の老齢化。耕作放棄地の増大。農業後継者、新規就農者の先細り。ここまではだれも異論がない条件だろう。本当に規模拡大と、機械化だけでいいのだろうか。
稲作他五品目が例外品目になる可能性は低いだろう。それでTPPに加盟しないとは思えない。自民党的に、訳のわからない条件で妥協する可能性が高い。農業分野に補助金をどれだけ入れるかが、必ず出てくる政策である。たぶん今回は、大型農家や参入する法人に対して、直接払いをすることになるだろう。補助金目当てに、異業種から参入するものもあるだろう。補助金が農業をアンバランスなものにする。補助金をもらえない農家は止めろということだろう。国の借金は膨大である。補助金にも限界がある。食料の基本である稲作農業が自立して生き残る道を政府は構想すべきだ。それを示したうえで、国際競争力のある農業の主張をすべきだ。利益の出る産業としての仕組みを政府は打ち出す必要がある。地方別の農業の方針を明確にすべきだろう。神奈川県の稲作農家は止めろということなのか。足柄平野に暮らす人間は極力足柄平野の食料を食べるべきだと考える。こうしたあり方は許されないことになるのか。
日本の稲作が最も合理化した場合の生産コストは、60キロ当たり6000円で、将来の可能性として4000円が限界ではないかとされている。(諸説あるが)1キロ、66円程度である。キロ130円消費価格が限界ではなかろうか。特定の地域においては、条件が整えば、現在の半値までの可能性はある。産業としての稲作と、自給的農業に2分化する。大規模機械化して産業として考える経営的農業に対して、補助金で一時的救済をするのはなく、大規模農家の経営基盤を徹底的に整える政策が必要である。満遍なくやるのではなく、地域経済として合理性だけを重視して行う。同時に業として考えていない、小さな農家は老齢化とともに消えてゆくことになるだろう。日本の国土を維持し、文化を支えてきた、こうした条件不利地域の田んぼは無くなる。棚田に代表される小さな田んぼがなくなることにより、日本の自然環境が崩壊するに等しい打撃になる。これは、たしかに直接的な経済の打撃ではないが、長期的に見れば、日本が失われてゆく道筋と言わざる得ない。
経営的には成立しないものでも、残さざる得ないものがある。日本を作り上げてきた、瑞穂の文化を残せるかどうかの問題である。日本文化が世界で評価される背景にあるものは、美しい日本で培われた感性である。それは2000年以上の日本人の暮らしを通し、日本人を作り上げたものである。それを失えば、日本人である価値も失うことになる。中山間地の稲作が、国際的な経済合理性がないからといって、その地域においては、重要な産業である。稲作が消えると同時に地域自体が消滅が増加するだろう。政策としては、中山間地の耕作放棄農地の公共化である。何が何でも維持するという、思想を政府は示す必要がある。自然環境保全地区の指定でもいい。伝統産業維持地区の指定でもいい。このまま限界集落が増え続ければ、日本が日本である一番大切なものを失うことになる。