ひこばえ農法の計画
のぼたん農園は石垣島のSDZs自給農業を目指している。石垣島で永続性のある暮らし方の提案である。どうすれば、永続的な自給農業が可能かを模索して行く。農業の経営という意味では稲作農業は政府からすでに見放されている。国際競争力のない農業は止めろという考えを政府が持っている。
確かに稲作農家の方に伺えば、多くの方が子供には継がせることは出来ないと言われる。経営の展望が無いからである。このまま行けば、石垣島の稲作はあと10年で終わりになりそうである。沖縄本島や与那国島のように、だんだん田んぼは耕作されなくなる可能性が出てきている。どうしてもそれは止めなければならない。
石垣島の環境の維持に危機が迫っていると言うことだ。石垣島の自然環境は田んぼによって支えられている側面がある。島という限りある水資源を水田ダムという形で、涵養している。地下水の増加や赤土の流出を水田が守るという形が何千年も続いてきたはずである。
石垣島の豊かな暮らしを守るためには水田はなくしては成らない物だ。多良間田んぼのように、多良間島の人達が石垣島に出作りまでして田んぼを作ることで、石垣島の環境も守られてきたのだ。どうすれば石垣島に田んぼが維持されるかを考えて行くのが「のぼたん農園」である。
石垣島では稲刈り後の田んぼが、もう一度田植えをしたのでは無いかと思われるように一面緑になることを誰もが見ていると思う。石垣島の気候では稲刈り後のイネが再生してくるのだ。刈り取った稲刈り後のイネから再生してくるイネを「ひこばえ」と呼ぶ。
以前から、ひこばえの様子で田んぼの土壌の状態を見るようにしてきた。土壌に十分の腐植が増えてくると、ひこばえの出が良くなる。有機農業の土壌が完成してきたことになる。それでも小田原では出てきたひこばえは寒さで枯れてしまう。
ところが、7月に刈り取る石垣島の田んぼでは、ひこばえは寒さで枯れることなく、そのまま穂を付けることになる。これが渡り鳥の餌になってきた。誰も管理する人がない、田んぼで二度目の稲作が始まっていたのを見てきた。収穫されることがないので、意図してひこばえ農法で作られた田んぼでないと言うことが分かった。
イネはおおよそ5ヶ月で育つ。小田原では4月に種を蒔き5週間苗を育て、5月末に田植え。そして9月末ごろに稲刈り。石垣島では1月に種を蒔く。2月に田植え。そして6月末頃に稲刈り。
このサイクルであれば、7月初めに田植えをされたイネは11月には収穫が無理なく出来ることになる。これがいわゆる石垣島の2期作と言うことになるが、もし田植えをするのではなくて、ひこばえをそのまま育てることが出来れば作業に余裕も出来る。
何しろ2期作目は何かすると言うわけではない。稲刈り前に肥料を入れることと、稲刈りを鷹狩りにすると言うだけのことだ。通年通水を継続すれば、土壌がむしろ腐植を増やすのではないかと考えるようになった。アカウキクサ水草緑肥である。
のぼたん農園で「ひこばえ農法」を試みることにした。ひこばえ農法の可能性は自給農法に向いていると言うことだ。ひこばえ農法はいかにも自給農業向きの方法である。通年通水。手作業による高刈り。土壌に腐植を増やして行くことが、自然農法にとって一番大事なことになる。そのためには途絶えることなく耕作を続けて、その腐植を田んぼに戻して行くことだ。
6月にイネからはお米は収穫することになるが、その藁や根は土壌に戻すことになる。また、水を張り続ける田んぼではウキクサや藻が増加して、腐植を増やして行くことになる。それは冬に緑肥を作ることと同じことになるはずだ。課題は水を入れ続けていて田んぼ土壌が維持できるかと言うことがある。
お米を作りながら緑肥を育てる。冬期湛水の冬期にもう一度ひこばえ農法で2期作を行う。ひこばえ農法の課題として、条件のもう一つが石垣島の土壌である。石垣島の土壌は通年通水しても緩くなりすぎない可能性が高い。畦が壊れてくることがない土壌だ。田んぼを歩いても今のところ田植えしたときと大きくは変化していない。まだ5ヶ月であるが。
ひこばえを充分に出させるためには、イネの根が収穫期になっても活性化していなければならない。稲を収穫する時点でも水がある事が重要である。大型機械を使う稲作では難しいことになる。機械の作業をしやすくするために、田んぼを完全に乾燥させることになる。イネは枯れたような状態で稲刈りということになる。
しかし、自給の田んぼでは手刈りをする。穂だけ高く刈り取れば収穫は出来る。50㎝くらいは残す必要がある。90センチに伸びたイネであれば可能になる。根は乾燥で傷んでいないし、イネ株を高く刈り取ることも簡単である。ひこばえが健全に再生される可能性が高い。
ひこばえが田植えされたように成長を続けるためには土壌に肥料分が必要である。田んぼが継続されて、充分に土壌に腐植が増えれば、追肥をしなくともイネは生育するはずである。しかし、まだ1年目の土壌では堆肥を追肥する必要があるだろう。イネの葉色を見ながら追肥を続ける予定である。
稲を刈り取る1週間前に堆肥を入れる。根が充分に肥料分を蓄えたところで稲刈りをする。行き場のなくなった肥料分は充分にひこばえを発生させることになるだろう。7月初めに田植えをしたようにひこばえが発生するのであれば、無理なく11月末頃には稲刈りが出来ることになる。
2期作でいままで行われてきたように、稲刈りと苗作りが重なり手間取ると言うことがなくなる。稲刈り後に藁を田んぼに戻した方が良い。敷き藁農法になり、田んぼに腐植が増え、微生物が増加するはずだ。草を抑えることにもなる。
石垣島の気候であれば、ひこばえ農法は無理なく行えると考えていいだろう。2期作が行われてきた伝統もある。自給農法で重要なことは休耕しないことである。耕作地は常に何かが作られていることが大切になる。農地は耕作されることで豊かな物になって行く農法を模索する。
農地は収奪される物ではなく、農地は耕作されることで育まれる物にならなければ永続性が無い。特に熱帯の気候に置いては裸地化することで、土壌が砂漠化して行く。強い日光に土壌がさらされることで、微生物が死滅してしまう。土壌が死んでしまう。8月の田んぼが乾かされ強い光にさらされてしまうことでは、有機農業の継続は出来ない。
石垣島の土壌の良い所は湛水を継続しても、土壌が軟らかくなりすぎないと言うことだ。自給の田んぼでは機械を入れると言うことはない。手作業が基本である。土壌を育てながらの稲作である。豊かになった土壌で収奪することの無い稲作を行う。
アカウキクサが重要になると考えている。石垣島にある貴重なウキクサである。今ではほぼ絶滅したと言えるほど少なくなっている。アカウキクサは窒素固定能力が高い。ラン藻類がアカウキクサに共生することで窒素固定を促している。アカウキクサを増やすことで、田んぼの空中からの窒素固定が進むことになる。
本来アゾラ農法と呼ばれ、合鴨農法などで行われてきた物だ。アゾラで窒素固定が進む。しかしアゾラは特定外来生物に指定され、使えない。よその土地からできるだけ植物を持ち込まないことも大切である。石垣島に昔からあったアカウキクサを利用できれば、それなりの効果が見込める。加えて年2回藁を戻すことも腐植の増加に繋がるはずだ。
田んぼにアカウキクサを増やすことで、耕作しながら土壌を豊かにして行くことが可能になる。しかもアカウキクサが水面を覆うことになると、水田雑草が抑制されることになる。アカウキクサは水生のシダである。中 国南部 とヴェ トナム北部 では水 田の緑肥 として明王朝時代 頃か ら利用 され てきた。
アゾラの窒素固定能力は最適条件ではヘクタール当たり1日で2kg と書かれている。生長量は最適条件では3日で倍になる。ただし、アカウククサはアゾラに競べてそれほどのいっそ固定能力はないとされている。日本産のアカウキクサは石垣島で保存していかなければ、近いうちに絶滅するだろう。石垣島でも希少種になっている。