西表島世界自然遺産決定延期
西表島の世界自然遺産決定が見送られた。良かったと思う。奄美大島と西表島が自然環境として繋がっているとは思えない。距離は704キロ離れている。文化遺産という事ならともかく、自然遺産という以上、自然環境的に関連がなくてはならない。西表の自然は、日本では白神山地、知床半島、屋久島、小笠原諸島、の4か所が今までに登録されている。同等に残すべき価値のある自然環境と思われるのが、西表島である。西表は一度は開発の手の入った場所ではあるが、現状の自然状態は残すべき価値がある独特の環境だと思う。亜熱帯の自然の再生力の高さという事もある。島の人口の減少によって、内陸部が手が入らない状態になった為もある。屋久島が自然遺産に登録されてその後の島の暮らしの継続に失敗している。この自然遺産の思想は、人がいなくなることが理想というような意味になる。屋久島にも、西表島にも、文化遺産的な意味もある訳だが、自然遺産として残すという事は、自然に戻し立ち入らないというような意味が強くなる。
今回の申請には沖縄本島のやんばるなども入っている。ところが米軍基地部分が外されている。こうしたおかしな状況に対して、自然遺産にするには問題ありとされた訳だ。当然のことだ。屋久島も住民自身が島の将来像を決める前に、申請が優先された。その結果島での暮らしが失われつつあると危惧されている。西表でも、島の将来像が地域の人たちの方向性として、自然遺産申請に統一されているわけではない。西表島ではむしろ観光開発に繋がるのではないか。入島規制はどうなるのか。人口減少になるのではないか。様々な意見があるようだ。十分な議論が行われる前に、申請が先行したように見えた。似たような事例になるが、石垣島で最も美しい海とされる川平地区 でも、アメリカ資本のマリオットホテル建築開発計画が進められている。マリオットリゾート&スパ客室約380室、最大2階建、アジア最大級のプール、東京ドーム約2倍程の敷地面積を持つホテル計画。石垣市はこのホテルが可能になるように、景観条例の変更を行った。それが良くないというのではない、それも一つの選択である。問題は地域で十分の議論がなされていないという事である。
今回西表の自然遺産決定が持ち越されたことは幸いなことであった。もう一度どんな地域にすべきなのかを、西表島の住民が十二分に検討すべきだ。環境原理主義者の主張に従えば、西表島に人が住んでいるのが問題だというような事になりかねない。何故、山猫は良くて、人間はいけないのか。ヤマネコの島になれば理想なのか。西表に人が住んでから、何万年もの時間があるはずだ。隣の石垣島には日本最古の2万7千年前の石器時代の人骨が大量に出土している。西表島にも同様の人間の歴史があった。日本人の原点と考えてよいのではないかと想像している。この八重山諸島の将来をどうするかを決めるのは、八重山で暮らす住民の人たちである。どのように決めるにしても十分な話し合いが必要であろう。当然あらゆる意見があるだろう。十分に時間をかけて話し合い、落ち着くところまで行かなければ、屋久島の二の舞になる。人が減少してよかったというようなつまらない結論になってはならない。
西表島ではイリオモテヤマネコの交通事故が1978年以降2018年4月11日までに80件起きている。観光客が増えたためなのか。推定の生息数が100匹程度とされているから、交通事故はヤマネコの生存に大きな影響があるだろう。こんな状況で世界自然遺産はあってはならない。家猫の野生化も問題になっている。自然保護と、西表の暮らしとの調和は可能なのかどうか。どのような結論を出すにしても、最終的な結論を出すのは西表島に暮らす人たちだ。まだ十分の議論があったとは言えない。今回世界遺産の決定が延期されたことは、もっと議論をしなさいという事と考えるべきだ。良い時間が与えられたのだから、再検討をすべきだ。世界遺産に指定されれば、人が押し掛けることは目に見えている。すでに石垣島は世界一の観光地になろうとしている。川平湾の環境条例の見直しも、もう一度地域住民の意見に耳を傾けるべきだ。環境破壊をしてしまえば、観光資源を失うという事にもなる。