花盛りの笛吹市
甲府盆地の花はここ1週間が見頃であろう。もうあんずは終わりに近づいている。笛吹市の花鳥山を描いている。左に見えるのが一本杉である。つまり花鳥山よりもかなり上に登り、花鳥山を上から描いている。だから背景のように下の方には甲府盆地が見える。そして空の中に、南アルプスが浮かんでいる。こういう景色を見ると描きたくなる。こんな場所で生まれたからなのだと思う。こんな場所というのは盆地を上から眺めるというような、独特の空間である。空間の広がりと大きさを認識するために最適な条件なのだ。というか空間意識がこういう特殊なもので形成されたという事かもしれない。洗面器の南側の淵に立って、朝になると東の方の淵から光が洩れ降り注ぎ、光がぶつかり合って、洗面器の中で立ち上がるような燃え上がるようになる。私の生まれた向昌院は藤垈の部落の外れの山のひだの中にある。甲府盆地の南の外れである。だから、甲府盆地を見ると光の中に坊ケ峰が浮かんでいるように見える。そして向かいの高いところの空の中に白い峰が浮かぶ。向かいに見るのが甲武信岳である。甲府盆地の西側の淵が南アルプスである。北の淵が御坂山塊である。
これは八千蔵の小山城址である。ここも面白いので今回も何度も描いている。かなり描けたと思ったのだが、もうひとつ面白くない。景色が近すぎるようだ。近すぎるところはどうして私の絵にはならない。もうはっきり辞めた方がいいかと思う。手前が桃である。白いところがあんずである。その上が桜である。その上に南アルプスが見える。何一つ問題のない絵になる場所なのだが。
小黒坂の集落の上の方から、坊ケ峰から甲府盆地が見ている。坊ケ峰にはテレビ塔が沢山立っているのですぐにわかる。見えている集落は下大窪という事になるのだろうか。このあたりも空間の面白い場所だ。甲府盆地の北側の御坂山麓の笛吹市の山側はちょうどリニアモーターカーが通る場所だ。私の育った場所をすっかり変えてしまったリニアモーターカーだが。お陰様というか、道がずいぶん整備をされた。何処にも車が入るようになった。幸いリニア―は私の絵とは関係がない。関係のないものは目に入らない。電柱とか鉄塔とか、高圧線とか妙なものはいろいろあるが、絵と関係のないものは見えない。そういう絵という妄想に入り込むのだろう。小高い場所を探すには不自由がない。特に桑畑だったところが、すっかりあんず、桃になった。桜もずいぶん植えられた。今の時期は全体が花に埋もれたようになる。一時荒れ地になり始めたのだが、果樹畑が増えた。今も新しい苗木が植えられている。まさか花の観光地になるとは夢にも思っていなかったが、ハイキングをしている人も見かけた。
花鳥山を描いている。どうもこういう浮かんだような感じに惹きつけられる。甲府盆地という海に、花鳥山という船が浮かんでいるような感じだ。何とか絵にしてみたいが、色があまりに美しすぎて、自分の絵にまで進められないとことで、行きつ戻りつである。しかし、ここは必ず絵になる。もう少し頑張ってみたい。4時に家を出れば6時から描ける。まだチャンスはある。ついつい水彩画の美しさにおぼれてしまう。描いている自分が酔わされてしまう。これはちがう。自分の世界観と、偶然生まれる水彩画色彩の美しさとは別のことである。こんな感じで車の中で描く。車の中にいるので、安心して眺めている。農家の人は花粉を集めていて忙しい。申し訳ないと思うが、邪魔にならないように描くのでお許し願いたい。