上野動物園・雷鳥育雛できず。
上野動物園での育雛の失敗は、心配していたことだった。野鳥の育雛は極めて難しいことだ。どの鳥でも餌には相当の工夫がいる。まして、高山の特殊な環境に生息する雷鳥を人工飼育するということは、並大抵のことに思えない。餌である。どんな餌をやればいいのか十分な研究のものとに、行われなければ、命を無駄にすることになる。だいぶ前になるが、富士山に雷鳥を移そうと放鳥を試みたが失敗に終わった。小学生のころで、山梨では結構話題になっていた。確か2回試みがあった記憶で、雛も確認されたはずだ。富士山の環境で雷鳥が生息できるとは思えなかった。ただ高山であればいいのでなく。水場があり、餌が豊富であることが重要である。富士山は5合目まで水場がない。だから五合目の水場には大量に鳥が集まる。鳥好きの観察の拠点がある。一度泊まって終日眺めたことがある。おりざ農園の窪川さんと一緒だった。彼とは高校生の時出会って、犬やら鶏やら魚やら、ありとあらゆる生き物への興味が共通で、何かと行動を共にした。もし彼が生きていてくれれば、一緒に雷鳥でも見に行けたのにと思う。そういうことになると彼は断ったことがなかった。
上野動物園で雷鳥を育てるだけの準備があるのだろうか不安に思っていた。雷鳥の生育環境がまるで動物園の人工飼育とは違うからである。6月に生まれて、8月末に死んだ。やはりかと思う。育雛の難しさの山が2ヶ月目から3ヶ月ごろに来る。育雛は雛から中雛に代わる羽が抜け替わる時期が一番難しい。栄養がたくさん必要になる。それだけの体力が備わっていなければ乗り切れない時期だ。餌である。普通の育雛用のえさを与えていたのでは、死んでしまう確率が高い。まず、雷鳥のひなが育つ自然環境を調べることである。3000メートルに近い高山地帯だから、微生物、病原菌の状況が相当に異なる。過酷な環境に見えて、こうした微妙な環境だから生き残ってきた、特殊な生き物だ。富士山に移しても結局定着できなかった。まず、生息する山岳地帯で、十二分に観察を続けることだ。そうすればどうすれば育雛できるかの材料があるはずだ。
観察ということが何より需要である。保護するなら、雷鳥になるくらいの気持ちで観察する必要がある。だからそれくらい雷鳥が好きでなければ、無理だと思う。青森、岩手、秋田の方に何度か、声良鶏を飼う人をお訪ねした。鶏の飼い方を学ぶためだ。本当の鶏好きの人から、それぞれの秘伝の鶏の飼い方を教えて頂いた。鶏を見る目が驚くほど深い。とさかの色や脚の違いを、10種類くらいに見分ける人がいた。そこから鶏の状態がわかるというのだ。私にはいくら見ても、濃い薄いぐらいしか見えなかった。目の表情で状態を見るという人など全く心眼で見るとしか言いようがなかった。しかし、そうしなければ飼えないということだけはしみじみ分かった。夜になれば、寝床に運んで枕もとで寝かせていた。朝一緒に起きて、3声鳴かせることを日課にしている。お訪ねしたときに、朝来いという意味が分からなかったのだが、朝の長鳴きの時間に合わせて来てほしいということだった。
中国でパンダの飼育を成功させている。それは相当に難しいことのはずだ。パンダになってしまった人が何人かいるのだと思う。中国の動物飼育技術の奥深さには伝統がある。野鳥の飼育もすごいものがある。中国で野鳥のえさの生餌を作っている人を訪ねたことがあるが、昆虫養殖の技術も安定した歴史を感じるものであった。需要があるから、技術が完成している。私が訪ねた頃から思うと、中国も急速な変化でどうなっているだろうか心配である。紅衛兵があれほど猛威を振るった時代でも、金魚や鳥の趣味は消えなかったのだが、現代社会の目まぐるしさが、悠久の中国の趣味の世界はどうなっているのだろうか。中国なら雷鳥の育雛の技術はある気がする。