水彩絵の具について
爪木崎の朝日 10号 朝日と夕日は描かれた絵では一見似ている。しかし、その場に立てば全く違うものである。この全く違う空気を書きたいと思っている。
水彩画は水彩絵の具を使う絵である。水彩絵の具は微細な顔料をアラビアゴムで溶かして、良く練ったものである。チューブに入ったものと、グリセリンを加えて固めた固形のものとがある。エジプトの古代文明ではすでに使われていた。水彩絵の具は透明度が重要なものなので、細かな良質な顔料を使う。顔料は細かくなればなるほど、白濁する。これをさらに純化して透明度を高め、彩度の高い顔料を取りだす必要がある。良い絵の具の製造は手間のかかるものになる。この為に、良い絵の具は高価になる。なかなか満足の得られる絵の具はない。正直、もっとこういう絵の具があればということになるが、仕方がないという妥協の気持ちで、ニュートンを中心にして使っている。しかし、ニュートンも実に色が悪くなった。濁りがあるし、彩度が落ちた。それでもシュミンケなど他の絵の具も使う色もある。我慢するしかない。どうも正確なことは分らないのだが、公害対策ということで、毒性のある顔料は精製が難しくなったらしい。そこで、先進国では作りずらくなっているので、中国で生産しているという噂もある。
どんな会社の絵の具を使うかという問題とは別に、どんな色を使うのかがある。1、コバルトバイオレット2、セルレアンブルー3、コバルトブルー4、ウルトラマリンブルー5、カドミュームレット6、カドミュームイエロー7、カドミュームレモンイエロー8、ニューガンボージュ9、ローズマダ―ジャニュイン10、コバルトグリン11、ビリジャン12、ローシェナ―。そして、13、ブラック14、ホワイト(その場に応じて色々)白黒は特色という形で普通は使わない。どの色も、良いグレーを混色して作れるということが基準に成る。この12色のあらゆる組み合わせで、色を作ってゆく。色数を多くしないのは、この12色で出ない色はないからだ。たぶんこの順列組み合わせ数に加えて、色の割合の違いまで考えれば、無限と言える色が可能である。特に紙の白が全ての色に加わる。また紙による吸い込みによる変化も多様。絵具自体の濃度によって、水分の量によって、さらに多様になる。使う色はむやみに増やすのでなく、最低限の色数で、無限の色が作れるようにしている。
混色をほぼ無制限にする訳だから、各々の色は、出来る限り彩度が高く、透明度は深く、濁りのないい絵の具が良い。それで選んできた12色である。絵具は混色せずこのままに描くことが、保存性からいえば望ましいが、それでは色の巾が出ない。名前の付くような色のみで描くべきだというマチス的な考えもある。純度の高い色に置き換えて描くことで、絵画のあいまいさを排除する考え。ところが、日本の自然を描いていると自然の持つ色彩のあまりの多様さに、曖昧さなしに表現しきれない感じを持ってしまう。水墨的に色彩を殺して考えれば、あらゆる調子と明度が複雑に絡み合った自然ということになる。自然から学ぶものが全てと思うので、混色を行い、色の微妙な調子を加えてゆくことになった。それが出来る絵の具が良い絵の具ということになる。当然、絵具を作る段階で顔料や体質顔料を混ぜたものは、使わない。
絵具は、会社によって名前も材料が違う。同じ名前でも材料が異なる場合すらある。いつの間にか変わっているということもある。時々調べておく必要がある。水彩絵の具には、対向性の弱い絵の具もあるので、対光性のあるものにする。コバルトバイオレットが濁りがでてしまったので、多くはシュミンケのマーガニーズバイオレットを使う。いずれ、グレーを作って気に入った色になるかならないかが、絵具の選択の基準である。チューブの絵の具を基本にして、ビリジャンは固形を使っている。ビリジャンも変わってもう一つ良くないので、昔買いためた固形の絵の具の在庫を今のところ使っている。チューブの絵の具もパレットに出して、半乾きの状態で溶かしながら使う。絵具は大量に購入し在り余るほどなければならない。無駄になる絵具も多いが、どうせ描いた絵だって無駄になると思えば、仕方がない。