小田原の田植えが近づいている。

小田原から送られてきた写真である。欠ノ上の苗床。播種三週目に成る前ぐらいだろうか。18日撮影。4月25日蒔種。つまり3葉期である。苗床の幅は1メートル。23メートルの長さに4キロから5キロの種籾が蒔かれている。一番左が新長塚田んぼ、右側二つが欠ノ上田んぼ。
左から2本目が今年参加させて貰う柿の下田んぼの苗床である。一番手前の1メートルが、酒米の山田錦。その次の3メートルがサトジマンで、あと20メートルぐらいが神奈川県の奨励品種であるハルミである。特Aを取った品種である。ハルミは初めて作る。生育を充分把握しなければならない。JAの作出した新品種。
小田原の新しい田んぼ一反3畝の田植えが近づいている。緊張してきた。5月26日に田んぼの準備。27日28日が苗取り、29日30日が田植えになる。東さんが農家を体験する田んぼだと思っている。いままで学んできた、イネ作りをできる限り伝えたいと思っている。有機農法のイネ作りはやはり、経験者がその時に応じて,細かく見方を伝えることが一番良い。
観察力を持つことが出来るかどうかが重要になる。イネの葉は多くの場合、品種によって違うが14枚から15枚出る。普通のことである。ほとんどの方が書物で稲のことを学んだわけではない。私の場合は絵を描くことから、みると言うことは専門のつもりだ。
苗の時から、三つの株に葉にマジックで1番2番と印を付けて、サトジマンでは15枚出ると言うことを確認した。平均的な話ではあるが、3年やってみたが、変わらず15枚であった。そういうことをするのが好きなのである。

ここは直まき実験田である。想定していたように、少しこちらの方が良いかもしれない。品種はハルミ。30センチ幅のスジ蒔きである。同じく3週目が近づくぐらいかと思われる。5週目になったところで30センチの間の苗は苗取りをして、補植などに回す。つまり、30センチ角一本上の直まき田になる。
このやり方は100坪くらいまでであれば、田んぼの中央に30センチおきに、3本の畝のスジ蒔きをして、左右に苗取りをしながら、田植えをして行けば、苗床と本田を同時に進めることが出来る。究極の省力化田んぼになると思うのだが。
昔このやり方で自分の小さな田んぼをやっていたのだが、草負けしてしまいなかなか大変だった。何故か今年はうまく草が抑えられている。初めての田んぼは草が出ない。代掻きも成功したのだろう。手作業で荒起こしをして、耕運機で代掻きをした。もちろん手の代掻きでも良いに違いない。昔は代掻きをしなかったことが草に巻けてしまうの原因だったようだ。
15枚出るなどと言う事はどうでも良いことのようだが、生育の流れを葉の数で見て行くと分りやすいのだ。イネの葉は1枚は小田原では1週間ごとに出る。種を蒔いて1週目に張りのような一葉が出なければだめだ。2週目には稲らしい2葉が、この生育に気がついたときには嬉しかった。
3葉期で一気に大きな葉を出す。この時から自分の根の力で動き出したのだ。苗床の土壌の状態が分かる。肥料が足りなければ苗の色が黄ばんでくる。黄色の苗が良いという人も居るが、黄色い苗では多収は出来ない。こうして、種まき9週目の稲はおおよそ9葉期の稲と考えて良い。
9葉期には分ゲツが20本以上採れていることが目標である。20本分のゲツが採れるためにはすべてがそろわなければ出来ないことである。水の駆け引き、発酵型の土壌による、稲の力の引き出し方。9週目に稲の観察を必ず行い、分ゲツを数え、定点の写真を毎年撮る。人間の記憶より、写真の方が正確である。
10週目の10葉期の頃イネは幼穂を株元に育て始める。この頃が補肥のタイミングとなる。補肥を与えるタイミングは難しいが、葉の色の緑の濃さや株ものとの膨らみ具合など判断しながら、補肥を与える。と言う具合に葉の数を数えながら、生育のあわせた管理が出来る。
何故田植えのが5,5葉期になるかと言えば、この時期に両側に分ゲツが出始めるからだ。このタイミングで田植えをすると一番分ゲツが採れることになる。有機農法では分ゲツを確保することが、一番難しいことになる。土壌が充分に出来ていなければ分ゲツはしない。
こうした色々のことは、何かに書いてあったわけでは無く、観察の結果そう思えたに過ぎない。だから、小田原の農の会なら参考になるが、他ではまた違うのかもしれない。この5,5葉期の苗は田植えをした翌日には生育を始める。翌朝には葉の先に露が宿る。
この露を根付いた証だと判断してきた。つゆの付く時期が遅れるようならば、活着が遅れる何か原因があるわけだ。多くの場合土壌の状態が腐敗方向になっていることが多い。苗取りが雑で根を傷めていると活着が遅れることもある。
苗取りでは株の根元が重要になる。根元から根も分ゲツが出てくるから、苗取りの時にこの根元を揺すって痛めたりすると、大切な分ゲツが充分に出ないと言うことになる。根に付いた泥は洗わない。そのまま植えた法が活着が良い。根はちぎれていても同じだという人も居るが、私には全く違うように見える。
イネ作りで収量を上げるためには三つの重要なことがある。1,5葉期二分ゲツの苗を「5週間」で作る。2,10葉期前後に的確に補肥を与える。3,深水管理と間断灌水を最後の最後まで行うこと。結果として60センチの長さで、2センチの幅のある15枚目の止葉を作る。
田んぼのあれこれでここに書いたことは思い出したことである。それを本にまとめたのだが、こういうことが山ほどあって本に書けなかったことの方が多い。すべては田んぼを見ることである。それは絵を描くことから得たものである。緑色の違いには自信がある。観察の仕方さえ確かであれば、その時々に何が大事で、何をやるべきなのかが分かるようになる。
それが有機農法の面白さで、田んぼの観察は尽きることがない。そうした私が知った、畝取りまでの道のりを他の人に少しでも残したいと思っている。小田原で東さんに伝えることが出来るのも今年が最後だと思っている。東さんも真剣なので楽しみなことだ。
私の稲作も上手くゆくばかりでなかった。失敗を重ね、改善を重ねてきたものだ。今度石垣島で田んぼを始めて見ても同じことだろう。失敗から始まるに違いない。失敗を材料にして3年先には石垣島向きの技術として確立したいと思う。その頃まで何とか田んぼが出来るだろう。
失敗を重ねながら、学んでだんだん収量を上げられると思っている。何故収量にこだわるかと言えば、稲の元気の力を最高に引き出すことがイネ作りだと思うからだ。元気な稲であれば必ず良い穂を付けることになる。有機農業による多収は、嘘偽りのない元気の証明だからだ。