米欧の対立が始まる。

トランプ氏とゼレンスキー氏は報道を前にして大げんかをした。そして、アメリカはウクライナへの軍事援助を中止した。軍事衛星を使ったウクライナ軍の情報網が閉ざされたのだ。ロシアはこの機に乗じて一気にウクライナへ攻勢をかけた。ウクライナは不利な停戦を受け入れた。これがトランプのやり方である。
トランプ氏にはウクライナがロシアに占領されてしまっても、かまわないのだろう。ロシアがレアメタルを手に入れるのは困るぐらいにしか考えていない。アメリカ人がこうしたトランプ氏を頼もしい大統領として支持している。自由な社会とか、国際法を破るロシアの侵略など、国際法の順守などどうでも良いのが今のアメリカなのだ。
アメリカやカナダやオーストラリアは、新しい国で移民によって、新興国的要素も兼ね備えた国なのだろう。成長余力の移民が注ぎ込まれているので今も人口増加である。新しい国でなんとしても生活して行く、夢の実現をするのだとしゃにむに頑張る人たちが、新たに加わってくる国。
それが経済の活性化につながる。日本の戦後社会もそれまでの、固まった階層社会が崩れて、誰もが等しく、頑張ればなんとかなるかもしれないという、可能性の広がる社会だった。高度成長はそういう、自由で上昇意欲に満ちた社会に生まれるものなのだろう。
中国やインドやインドネシアのような、すごい人口を抱えた資本主義的な意味での新興国は、まだそうした上昇意欲があふれ上がっている。そして、ヨーロッパアメリカの白人社会を追い抜いていくことになる。時代が変わってゆくことに対する焦りが欧米に極右勢力を産みだしているのだろう。
ヒットラーの出現の時代とどこか似ている。アメリカのように、まさに民主主義的選挙でトランプ独裁政権が選択されるのだ。それをよしとする選挙民には悲惨な未来が待っている。自由、平等、博愛を旨とする社会を自ら失おうとしているのだ。アメリカの正義が失われた。
世界中でトランプ氏のような独善的な自国主義者が選挙で選ばれることが増えている。どこの国も終末期資本主義競争に追い詰められてきたのだろう。豊かな国家の中で、豊かさに自足できない心の貧困である。経済競争は拡大再生産の自転車操業である。競争で精神がゆがみ、これで良しという満足がないのだ。
アメリカのウクライナを見捨てる姿勢は、ヨーロッパに衝撃的な影響を与えている。今回トランプ氏がロシア占領地南東部4州をソビエト帰属にすることで停戦をしようとしていると思われる。だからウクライナは受け入れがたいことなのだ。次にはウクライナ全体がロシアに併合される恐れがある。
ゼレンスキー氏が主張するウクライナの安全保障を確約してほしいという希望は、次の段階でロシアはウクライナ全体を併合することになると恐れているからだ。ナトウに加盟できないウクライナは、結局ロシアの配下の国家になる以外選択がないと言うことになりかねない。二度とロシアに戻りたくないのだ。
何やら日本の未来を見ているかのようだ。アメリカに従って国の安全保障を考えることはもう出来ないと言うことだろう。世界は核武装した国と原爆を持たない国に2分されて行く。核武装がこのまま広がると見なくてはならない。ウクライナも核武装してロシアの侵攻を食い止めると言うことになる。北朝鮮方式である。
ウクライナでは、かつてチェコスロバキアがドイツに併合された歴史と同じことが起きている。チェコスロバキア内の旧ドイツだった地域が、ドイツ語を話す地域の所属問題が、当事者チェコを部外者扱いにして、当時のヨーロッパの大国間で話し合いをした。
元ドイツの地域をヒットラードイツに帰属することに話し合いで決めたのだ。これで平和になると考えていたヨーロッパであったが、たちまち、チェコスロバキア全体がドイツに併合されることになってしまった。これが第2次世界大戦の始まりになる。
ウクライナがロシアに併合されると言うことは、ヨーロッパで自由主義陣営とロシアとの対立が起こると言うことになる。ゼレンスキー氏の主張する、ウクライナの安全保障をどうしてくれるのか。という主張は、ウクライナだけの問題ではないのだ。
第3次世界大戦の危険が迫ると言うことになりかねない。だから、ヨーロッパとしてはウクライナの和平に、ウクライナを加えた安全保障の確保を必要としている。自由主義陣営が亀裂を生じている現状は、軍事大国ロシアと中国に隙を与えることになっている。
アメリカにはそんなことはどうでも良いと考えている。アメリカは一国主義だから、ヨーロッパ諸国がお金をもっと出さないのであれば、ナトウから離脱すると主張している。世界情勢が変わり、アメリカとヨーロッパの対立が始まるように見える。アメリカの一国主義は世界戦争の道になるかもしれない。
ヨーロッパが福祉と平等の社会を進めている間に、ロシアの独裁政権はひたすら軍事力の強化をしていた。プーチンにはナトウの分裂が計算に入っていたのかもしれない。アメリカがナトウから手を引く状況を作り出せれば、ヨーロッパはロシアの権益を尊重せざる得なくなる。
ロシアはヨーロッパに対して、軽んじられてきた歴史的屈辱がある。しかしロシア人の中にはドフトエフスキーを生んだ、深い思想を持つ世界観がある。ここ100年間のロシア独裁政治の変遷を見ると、独裁の世襲を行う北朝鮮と変わらない劣化の歴史である。
ウクライナがロシアと距離を持ちたいと考えるのも当然のことだろう。ロシアの周辺国は常にロシアを恐れて生きてきた。50年前の冷戦下のポーランドにダビンチのテンを抱いた貴婦人の絵を見に行ったことがある。
ポーランドのクラクフで偶然出会った普通の家に滞在させて貰ったことがある。そこで見たロシア人に対する恐怖心はすさまじいものがあった。これほど恐れているのであれば、いつか何かが起こるだろうと思った。そして、ロシアの崩壊が起こる。ポーランドは1999年ナトウに加盟することになった。
ウクライナで今起きていることは、アメリカとヨーロッパの亀裂を生む可能性がある。それは日本とアメリカの安全保障条約にも影響するだろう。日本はアメリカと距離を持つべき時に来ている。そうでなければ、日本はウクライナにされてしまうだろう。
米中対立を見ていると、むしろ中国の方に正当性がある。アメリカの一方的な関税のかけ方は、理由がない。間違いである以上アメリカに悪い結果になる。アメリカの経済への反動が大きくなる。トランプ関税はアメリカへの悪影響の方が、中国に対するより大きい結果になるにちがいない。
アメリカは自由主義陣営の自由貿易を支えてきたからこそ、繁栄した。アメリカの軍事力による世界への貢献も、主たる目的はアメリカの安全保障なのだ。アメリカは世界の面倒を見ることで評価され、経済成長を遂げた。トランプの一国主義の結果、アメリカは世界から拒絶され、衰退することになる。
日本はこうした不公正になったアメリカの仲間でいることは、決して正しい選択ではないだろう。中国にも国家資本主義という問題点はあるが、まだアメリカよりはましかもしれない。中国と緩やかな関係を模索するときが来ているのではないだろうか。それが米欧の対立を見ていて、判断されることである。