水彩人作品批評 2
水彩人は小さな公募展ではあるが、今年も15名もの初入選の人がいる。初入選の人の作品評を書いてみる。読んでもらえるかどうかはわからないが。
関口茂子 「秋」
色の圧力が面白い。筆触が良いということなのだろう。色彩の心地よさが際立つ作品。色彩の味わいが品格を与えている。ものに対する見方が良いのだと思う。空間への意識が少し不足している。空間を汚して調和させているのかもしれない。空間の側からものを描くという意識を持つとよいのかもしれない。
辰仁 麻紀 「揺れる秋」
空間の深さや調子に、たぐいまれな才能を感じる。ものを切り取る美しさが鋭い。日本画的な切り取り方ではなく、この切り取り方に絵画性を感じる。色の濃度の配置が的確。少し気になるのが、材質的な表現である。これだけの空間感があるのだから、もので示すのではなく、色の濃度だけでより深い表現が可能ではないだろうか。ものの説明的なところは、なくしていったらどうだろうか。
友野 郁美 「港への小径」
構図に面白さがある。降りてゆく道の表し方が良い。入れられた人物が空間を作り出している。風景に入れる点景人物が成功している。影の深い表現と港に広がる明るさの対比が、もう少し明確になるといいのではないだろうか。着色をさらに重ねる場所を探すとよいのだろう。
石井 博子 「静物としての布」
題名の通り布の表現がすごい。布に命がある。静物画として考えると布が行きすぎているのだろう。しかし、布が描きたいという気持ちが伝わってくる。布を見つめる目がよくわかる。この目が画面全体に及ぶとよいのだろう。布を見る目は素晴らしい。ここまでやるのであれば、布だけの静物ではないだろうか。
長谷川 和子 「御園が染るとき」
風景に広がる空気感がすばらしい。御園とは地名なのだろうか。何か特別な思いを感じる。画面に物語があるといえるのではないか。点景の人も雰囲気は良いと思うのだが、もう少し丁寧に描きたい。地面の影が染まるというように、影を色で描くほうがよかったかもしれない。
松井 隆子 「Bouguet of Flowers」
水彩の色の美しさが魅力的である。描写力も素晴らしいものがある。周辺の空間の描き方に、あいまいさがある。ぼかすことで花束がより美しくということなのだろうが、この辺の処理法に、淡彩表現から、感が表現への課題がある。花を見るように、空間を見るといい。
仲田 有紀 「水無月の輝き」
一つの水彩画法は成功している。花が際立って美しい。みずみずしい切り花が目の前に存在しているようだ。心地よい色の世界に緊張感がある。空間への意識が気になる。花瓶の下の白抜きの部分が花を支えているのだろう。テーブルの影も同じくわずかに塗ることで花瓶や花が支えられている。その最小限の表現という美しさと、物足りなさでもある。この先の世界を是非見せてもらいたい。
小早川 洋子 「蝶が飛ぶ日」
明るい水彩の表現に惹きつけられる。薄塗りの表現ではあるが、淡彩風のあいまいな表現ではない。で特に服の布の表現が魅力的である。布の模様が美しい。蝶が飛ぶ日ということは春の出発が象徴されているのだろう。蝶に暗示される未来が輝かしいという願いの絵であろう。
佐加井 宏子 「花の交響曲」
窓辺に並ぶ花が窓越しに見える木々と調和して、確かに花が交響曲として美しい。一つひとつ違う花への丁寧なのまなざしにこの絵の表現がある。花瓶とテーブルの説明的な表現が、少し気になるところだ。
大門 純子 「千体地蔵(A)」
あたりの緑の表現に面白さがある。地蔵に続く道の表現も独特で面白い。水彩の一つの表現法であると思う。問題は肝心な地蔵である。石仏なのだろうか。並んでおかれたお地蔵さんなのだろうか。中央に大きくあるだけにここの描き方にひと工夫が必要だった気がする。
中尾 つやこ 「時の交差点1」
色の配置が魅力的だ。そこから絵の不思議感が広がる。動こうと居ている時間を描くことで、過ぎてゆく時間というものへの独特の表現が生まれている。背景を格子にしたところに、時を刻むというような見方ができる。気になるところが色彩が画面に乗っていないような感じになっている。紙を使ってみるとよい気がする。
井上 蓉子 「水辺」
水辺の心地よい空気が魅力的である。危機の緑の鮮やかな感じも好感が持てる。水の流れもよく描けている。問題は影の部分にあるのではないか。影が手前に黒々とあるために、明るさは弾きたつのであるが、同時に明るい色を見ずらい感じにもしている。
志村 美知子 「コロッセオの悠」
色彩の微妙さが絶妙である。グレーの中の幅だけで古い建物の魅力が良く表されている。グレーの意思の調子に絞り込まれた魅力がある。気になるのはこの表現が絵具の盛り上げを伴うところだ。水彩の透明感が組み合わさると、より面白くなる気がした。
中谷 澄人 「花と果実」
素晴らしい静物画である。描く心が伝わってくる。ここの事物一つ一つに伝わってくるものがある。空間や置かれている場の表現も、実に見事である。えがきかたの多様性もある。かなり水彩に慣れているのだと思う。百合の白さの表現など見事である。少し線が早いところがある。ゆっくり止めて、しみじみと伝わるところを作ってみたらどうだろうか。世界観のある絵だ。
宮下 幾朗 「雨模様」
背景が美しい雨模様になっている。雨脚まで描いている。濡れている世界が美しい。花の表現も派の表現も丁寧で美しい。花の中の変化、葉の中の変化を意識すると、さらに面白くなるのではなかろうか。