アトリエの車

   

中判全紙の絵を描いて居る。画版のサイズが50号くらい。

絵は車の中で描く。最後の段階で家で描くこともあるが、家で絵を描き始めるのは、庭の景色を描くときぐらいである。全ての絵を車の中で描くと言ってもよい。見なければ絵を描くきになれない。野外に出て人に見られている状態で描くのでは落ちついて自分の絵が描けない性分である。自分を風景の中において描くのでは、環境に圧倒されてしまうのでは絵を描くことが難しい。窓から時々眺めるくらいの風景との関係がちょうどいい。車で風景を描きに出かけてゆきながら、車の外はほとんど見ないで描いて居ることの方が多いい位である。見ることがないとしても、窓の外にその景色があるという事で落ち着いて絵が描ける。極端な場合は、家に駐車してある車の中でわざわざ絵を描くこともある。風景を描くようになってから30年、徐々に固まってきたやり方である。アトリエ用の車も今回で、5台目という事になった。スズキのエブリの商用車である。

窓には半透明の日よけがある。車の前はアルミの日よけ。

低価格というところも良いのだが、窓ガラスが透明というところがアトリエとしては必要最低条件になる。窓ガラスを透明に変えるという事も出来ないではないらしいが、20万はかかるとキャンピングカーの展示会で言われた。すでについているガラスを廃棄して、透明に変えるというところがいかにも嫌だ。こういう無駄には耐えられない。だから透明ガラスの車を選んだ。透明なだけに車の中は実に明るい。そのままだと明るすぎて、外にいるようで落ち着かない。そこで窓ガラスには断熱を兼ねた半透明のパネルを作り、はめ込むようにした。半透明なので、絵を描く方向と反対の側はパネルをはめて部屋のような感覚にした。以前はカーテンにしていたが、カーテンは隙間から光が画面に当たり、光むらが邪魔で困った。床は古いマットレスを車床一面になるように調整した。床に座って絵を描く。手織りの結城紬の布で覆った。素朴ながら、贅沢この上ない見事な床になった。床からの冷気はない。側面も結城紬の白い布で張り巡らそうかと考えている。

窓のパネルは、プラステックの中空の6ミリと、3ミリの板を何枚か張り合わせてはめ込む方式にした。下に支えるレールをつけて必要なとき使うようにした。100円ショップの両面テープのフックでもいいらしいが、もう少ししっかりとしたものにしてみた。マットレスがもう一枚あったので、こちらは三枚折りにできるように、やはり結城紬の布で袋を作り入れ込んだ。こちらはソファーのようにもなるし、壁面からの冷え防止にもなる。いずれも布が素晴らしいのでアトリエ内部の雰囲気がかなり良くなった。せっかくだと考えて、絵を描く画板もコルク製のものにした。上手く安定して絵が描けるようだ。暖房は人形型の南極でも使える寝袋である。これに入れば、マイナス5度でも絵が描ける。寝袋の中には張るカイロ一枚入れれば十分である。そのまま寝込んでも風邪もひかない。

早速篠窪に描きに行った。さすが秋の農地は美しかった。何本もある豆柿が素晴らしい実りである。これにはうっとり見とれるほど美しい。定位置に止めて描いて居たが、車のすれ違いには問題がなかった。地味な銀色の商用車なので農家の方もそう不審な目ではなかった。これが一番心配だったのでほっとした。軽自動車は狭い場所でも止められるところがありがたい。それでいて内部は結構広い。50号くらいなら描けるのではないだろうか。中判全紙なら十分な広さである。後は絵を描いて居るという事が外からすぐわかるようにできないかという事である。笹村アトリエとでもロゴを入れるか。車に絵葉書セットを備えておく。あいさつ代わりのものである。いつも描くところの方には、お茶菓子ぐらい届けるようにしている。

 

 - 水彩画