植物共生微生物と農業
<<小田原有機の里づくり協議会>>主催講演 「土壌や作物と共に生きる微生物の世界から考える(有機)農業」池田成志氏(農研機構北海道農業研究センター)
8月19日梅の里会館で行った素晴らしい講演だった。農業分野の天才にお会いしたのはこれで二人目だと思った。土壌の宇宙が明確にイメージ化されている人がいる。その綜合される土壌世界を想像させてもらえた。植物と微生物の共生の姿は目に見える訳ではない。見えないけれどある世界だ。人間が微生物と共生している生き物だという事は何度か書いた。この人間という宇宙もどこまで、その内部世界を描けるかが重要なのだと思う。腸内フローラが云々という話は、もう普通の話題になった。しかし、そのミクロの世界を自分の命とともに具体的に、意味あるものとして見えるかどうかが重要なことになる。その具体的な姿が見えなければ、不安を煽る企業の宣伝に載せられて、〇〇菌サプリを飲まされるだけだ。植物の世界でも全く同じことになる。今私は稲が病気になるのではないかと不安に駆られている。オロオロしている。そういう時に農薬に手を出しかねないのだ。生きものの世界を知っていれば、そんなに単純なことではないことが分かる。
有機農業の稲がよその田んぼより緑が濃い。これは肥料をやろうがやるまいが同じことが起きている。それすら認めない有機農業の関係者もいる。私は田んぼの絵を描いて居るから、田んぼの色に関しては、絶対の自信がある。その緑の濃さを単純に窒素が多いいからだと、説明しては稲と田んぼの世界は見えてこない。私はその世界を見たいから、田んぼをやっているようなものだ。ここにある宇宙は実に神秘であり、科学的な世界だ。世界観と言ってもいい。土壌分析をすると、慣行農法の田んぼより窒素は必ず少ない。私は100回以上田んぼの土壌分析をしているが、ふつう必要とされる窒素量を超えたことは一度もない。しかし、稲の緑は濃いのだ。つまり植物の窒素吸収能力が高いと考えることが正しい。なぜ有機農業の田んぼでは窒素吸収が高まるのか。それが共生微生物の力だ。田んぼの中で微生物と稲が共生しながら、窒素の生産をしている。その原料が腐植である。腐植にある炭素を餌にして、窒素を植物に供給している。この姿を頭に描けるかである。
微生物の宇宙は人間であろうと、植物であろうと、大きな違いはない。生きとし生けるものすべてが、微生物と共存している。だから、病気だからと言って悪いものだけを排除するという訳にはいかない。ニワトリが好きで、発酵飼料を何十年も作ってきた。その経験から微生物の不思議な宇宙を日々感じてきた。それは自分の体内の世界にも通じているという事が感じられるようになった。そして、この講演を聞いて実は田んぼの中で起きていることも、微生物の宇宙なのだと想像が広がった。何故、除草剤を使うといけないのか。何故、殺菌剤、殺虫剤を使うといけないのか。抗生物質を使ったようなものだ。共生の均衡が崩れる。良いものも、悪いものも、どちらでもないものも、実は綜合され成立している。今悪いと思えるものが、実は未来においては良いものとかかわるのかもしれない。分からないければ淘汰するではなく、分からないのだから共存の道を模索する。
微生物共生農法と言えばいいのだろうか。未来農業の方向が示されたように思えた。人間の医療が耐性菌の出現で変わろうとしている。同じことが畜産の世界では、深刻な形で起こっている。鳥インフルエンザである。病院の内部で起こるようなるより、畜産の世界ではもっと深刻なことが、もっと極端なことが行われる。世代交代も早い。狭い範囲で莫大な数の生きものが飼育される。まるで、新しい病原菌の登場の為の実験場のような状態である。大規模養鶏場は危うい存在である。国際競争力のある農業への道は、略奪的農業への道である。堆肥を作り畑に入れるような、東洋3000年の循環農業と逆行する農業である。農業というものは国の基本である。そこが病んでしまえば、国も病んでゆく。微生物共生の農業とは日本の昔の稲作を、科学的に説明したものだった。