木製太鼓を作る

   

木を敲く音が好きだ。子供のころ、木魚で遊んだ体験から来ているようだ。向昌院の本堂には古い朱塗りの木魚があった。8寸ぐらい有る物だったと思う。お寺にあるものとしては大きなものではない。朱塗りの漆が赤黒く変色をしていて、あちこちがはげ落ちていた。それでも貧乏寺にとっては貴重な仏具であった。むやみに遊んではならないとされていた。叩いて鳴らす、ポクポクという響きは乾いた木の木霊のようで他にはない音である。子供の気持ちをいやす心地よいものなので、何の意味もなくたたいていて遊んだ。あの懐かしい音を自分で作りだしてみたいと、ときどき思い浮かぶ。特に木の塊を見ると、ついくりぬいたらいい音がするのではないかと、想像を巡らせてしまう。昨年の冬に森林組合にあった、欅の羽材中に10センチくらいの穴なら刳りぬけるぐらいのきれっぱしがあった。貰ってすぐに穴だけは空けた。すぐにやらないと割れるからだ。中を空洞にしてしまえば割れにくい。

本来、木魚は楠で作るようだ。楠の方が彫りやすいし、柔らかな木だから音も柔らかに響く。しかし、何故か楠より欅の方が好みの木なのだ。アメリカの原住民たちの考えていた、マザートゥリ―という物ではないかと考えている。欅の木を抱きかかえて静かにしていると、心がとても落ち着く。木目の硬さがいい。叩いた時の音も少し硬くなるのだが、硬い音を上手く操作したら、さらに良い音にならないかとつい考えてしまう。木琴は堅木の紫檀などが使われている。硬いものを上手く加工すれば、面白い音になるはずだ。木魚の構造は中空である。木琴は木が浮かされて置かれている。この中間型を考えたらどうか。つまり、中空の上部の板に切り込みを入れて、板がある程度浮いた状態になった場合の音の変化である。ウッドドラムは板で樽のような箱を作り、四角も丸もあるが、上部に切れ目のある板を張る。もちろん全く切れ目を入れないで、薄い板を張る物もある。

私が作ろうとしているものは、スリットドラムとか、タングドラムとか言いうものらしい。木の塊は木魚のようにすでに中空になっていて、それなりの音がするようにはなっているので、さらにこれに切り込みを入れるのはかなり迷った。2本のスリットを入れて中央部分を切り離し、左右から舌が突きだした形にしてみたのだが、案外音の変化がない。板の厚みや、空洞の形が影響するようだ。微妙に厚さや隙間を変えているうちに、以前のスリットのない時とは、全く違った響きが現れた。これは面白い。何か、振動で共振が起こるようだ。叩く場所でも大きな変化が表れるようになった。ただこの音を上手くつなげるには、演奏技術が必要なようだ。リズム音痴という事もあるので、音楽に合わせて叩くということは出来ないが、静かにたたいていると気分がよくなる。なって響いた音より、わずかな余韻の違いの方が面白い。アフリカのジャンベのCDに勝手に合わせて敲いていると、なんとなくその気になる。

今度はボックス型の物を作る予定である。上部の板にスリットを4本入れて、3本の下を工夫する予定である。板は、昔から保存してある、縞黒檀を使うつもりだ。木の幅が18センチくらいで一部割れている。厚みは、1センチくらい。ボックスの方は、加工の簡単な木でやってみたい。上部板に線を入れるのは糸のこでないとだめなので、どこか加工所を借りてやってみたいと考えている。以前は県の工業試験所でやらせてもらえたが。写真はボックス型の試作品。三角型のベロを一つのものだ。回りは杉材である。そこは塞いでない。舌の厚さを調整して、音を徐々に整えている。上板の材料はさくらである。厚さは25ミリある。少し、厚過ぎるので舌の中を丸るくへこませてある。まだ調整中である。仕上げとしては、全体をもう少し黒っぽく仕上げるつもりだ。底の浮かせ方も音に影響するのだが、なぜ、タングボンゴが底まで閉じてあるのかまだわからない。

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