水彩紙について
妙義山 10号 妙義山も不思議な山である。残念なことに描きやすい場所がない。
水彩画の技術を考えると、3つの材料に由来する問題がある。紙と、筆と、絵具である。油彩画であろうが、日本画であろうが、材料に限定されているのは同じであるが、水彩の場合、先ず基本は、紙に、透明水彩絵具で描くということである。水彩画でも多様な方法が存在するが、先ずは、水彩画の基本技術が自分の表現に向いているかどうかを考えておかなければならない。水彩画は白い紙を使い、その白さへの絵の具の透過度を使うものだ。そのために、一般に色彩は白を含んだものになる。その点顔料そのものの色を表現に使う、油彩画や日本画とは色味が異なる。この点、日本の様な湿度の高い気候における色彩は、白を含んでいるために、水彩的な色調と言えるだろう。水彩画が日本の風景に向いているということは、やればやるほど確信されてくる。白い背景を生かしながら、描くということが白を含み、感じさせる風景の色調に適合しているということになる。
まず紙から。水彩画は白い紙に描くことを基本とする。紙は目のあるものと、目のないものがある。水彩紙は一般には、目があるものが使われる。目がないからと言って水彩画の特徴が生かされない訳ではない。一般的な水彩紙の目は布目である。圧力をかけて、紙を漉く際に水を絞り取り圧迫する、当て布の目である。毛布目と言われて、毛布の織り方によって、目の大きさ深さが変わる。目に水彩絵の具が溜まったり、あるいは目が白く残ったりするために、紙の白さが複雑に生かされる事に成る。目に当たる光の角度の加減が変化して、色のニュアンスが変わるということもある。このために白色の絵の具や、白を混色した絵の具に関しては、特に目の影響を受けやすい。水彩紙に関しては、日本のものはまだ十分ではない。どうさのかけ方や、目の生かし方が日本画と違うことが原因のようだ。水彩紙はラグで出来ているものが、描きやすい。ラグとは木綿の布の使い古したものをたたいて、繊維に戻したものである。
紙は使ってみなければどれが自分に合うかわからないが、自分に合った紙を見つけるまで、あらゆる紙を徹底して使ってみる必要がある。紙の良さは一度塗った状態がいいもの。そして、何度も塗り重ねることで、違う調子が出てくるもの。その両方の性格を有している必要がある。つまり、使い勝手が多様で、どこにでも変化して行ける性格を有しているものが基本の紙として望ましい。紙に熟達してしまえば、包装紙であろうが、藁バン紙であろうが、その紙を生かすことができる。どのような描き方にも、対応してくれるという意味で、クラシコファブリアーノが優れている、と私は考えてきた。淡彩部分と、強い重ね塗り部分が共存できる紙。残した白の鮮やかさも良いし、一度塗りの淡彩も美しい発色である。何回でも、何年にも渡って加筆することも可能である。自分の使いやすい紙を見つけるということは、絵肌を決めるということで、あらゆる紙を使ってみる必要がある。適合した紙は絵の傾向によって異なる。何種類かの紙を使えるようにしておけば、絵によってマチュエールの選択をすることが出来る。紙の厚さは、厚い方が基本的に描きやすい。浸み込む水分が大きく、描く状態の幅が広いということだ。
クラシコファブリアーノのあら目を基本の紙としている。70%はこの紙で描いている。さらに荒い調子が必要な時は、インドの手漉きの水彩紙を使う。この紙はとても色調が深い。この紙でなければ出ない、奔放な雰囲気があるので、10%ぐらい使う。細やかな表現が必要だと感じた時細目というか、スムースな表面の紙として、アルシェの細目や、ワットマンの細目を使う。5%ぐらいづつだろうか。目が要らない絵ではあるが、正確な色彩の変化が必要な場合である。和紙を使うことも5%ぐらいあるが、雰囲気が出やすいので、一見出来たような気がしてしまい、自分の絵を作るということでは、難しい。そのほか、MBMの木炭紙とか、ケント紙等。独特の澄んだ発色があるので、使うこともある。正し保存性に問題はあるので、酸化に注意が必要になる。どの紙にも特徴があり、紙を生かすことが、水彩画の基本の特徴になる。紙は長く保存しておくと、より描きやすくなる。しかし、ドウサやカビの問題があるから、保存は完ぺきにしておく必要がある。ハトロン紙で見っぷし、桐箱に保存する。私は、100歳まで描いても大丈夫な位の紙は保存している。