愛知県農林公社の倒産

   

愛知県農林公社が約227億円の借金を抱え倒産した。1965年に設立され、農地の再配分などを行う農地保有合理化事業や分収造林事業をしてきた。小規模農家から農地を買い上げて大規模農家に転売する事業や、林道から離れているために手入れが難しい森林を管理し、木材を売って土地の所有者と収益を分け合う事業を実施してきた。しかし、木材や農地の価格下落で大幅な債務超過に陥った。これは全国にある、同様の事業を行う公社が同じ問題を抱えている。特に林業関係の公社や財団は、困難を極めている。農地保有の合理化事業は農地の減少を食い止めるために行ってきた国の事業である。農協なども同様の事業に取り組むところもある。放棄農地を減少させることが目的である。しかしこの間、農地は減少を続けているのだから、この事業が機能してきたとは思えない。大規模農家に農地を集約しようという政策にこだわりすぎるために、成果が現れないと考えるべきだろう。

農地が高い価格で売れるなら、売りたいという人はいる。しかし、農地を高い価格でも買いたいという人は、普通の営農を考える人にはいない。本来の農地の適正価格とは、営農を続ける経営合理性のある価格ということなのだから、取引が成立するのは特殊な事情の場合だけになる。製造業において工場用地を購入する場合、企業はその分野の展望を考え、投資効果と採算性を考える。企業資産という観点もあるだろうが。純粋に農地の営農可能な価格を考えた場合、30年間価格がつかない地域が広がったと見なければならない。土地価格が下がり続ける現状のような場合、所有農家としては財産としての意識から、流通価格より相当に高い思い込み価格がある。一般企業の農業参入を求めているわけだから、経営計画を立てれば、当然農地価格は安いものにならざる得ない。この両社の意識の開きが、農地保有合理化事業の有効に進まない原因であろう。

私がこれから養鶏を行おうとすれば、農地を買うということより、やはり借りるということを選択するだろう。13年前もそう考えた。畜産には、地域の反対がつきものだから、買う方が経営の安定にはいいだろう。それでも10年間借りられるなら、貸借料は高くてもいいから借りようと考えた。施設投資をして、10年間は借りていられないとまずいとは考えたが、10年後いつでも返せるほうがいいとも考えた。10年先に農地を管理できるかという不安があった。農地を所有するということは、耕作地として永遠に維持する責任を負うということでもある。購入してしまえば、責任がより重くなるので、その負担感も避けたかった。農地の地代というものには決まりはないが、タダでも使ってもらえればという人がたくさんいる時代である。1000㎡年1万円前後というのが大きな相場だろう。50年借りて、50万円のものを500万円を出して買う人がいるだろうか。

農業の状況は私が始めた25年前より、小田原に移った13年前より深刻である。その原因は、政府には30年前とまるで同じ発想しかないということである。「大規模化と企業参入で国際競争力」これは、農家をあきらめさせる建前論である。本来国際競争力があるも農業に対して、農家の努力が足りないのだ。こう主張しているのだ。もし、本気でそう考えるなら、日本の農業を考えた場合、稲作のことである。阿倍さんでも、経済再生会議の方でもいいので、小田原の久野に来て、国際競争力のある、稲作を実践して見せてもらいたい。せめて、机上の計画だけでも建てて見せてもらいたい。不可能だと断言できる。稲作は野菜や果樹とはその本質が異なる。日本の国土の保全、食料の安定供給。生活環境の整備。すべて稲作と結びついている。その稲作面積の減少が一番大きい状況だ。ここ40年毎年1%づつ減少してきて60%になった。今後も減り続けるのだろう。日本という国を考える上で、深刻な変化である。すでに瑞穂の国と言えない状態なのかも知れない。

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