福島小国試験栽培の結果
第五回放射能の農畜水産物等への影響についての研究報告会が開催された。東京まで行くことは出来なかったが、インターネットでの放映がされているので、見せていただいた。全体では学問的には研究途上であるが、新たに見えてきたことが色々あることも分かった。一番は根本先生の報告にある、福島の昨年度500ベクレルを越えたため、作付が禁止された地域での試験栽培の結果である。細かなことはこの報告だけでは分からないが、全体として考えると稲作においても、私の予想をはるかに下回る数値になったことである。これは根本先生自身も言われていた予測通りである。私は、山の樹木が吸着したセシュームが落葉し、むしろ今年の稲作への影響の方が強く成る可能性を危惧していた。久野地域でもその結果を自分達で把握するために、農の会の放射能測定の会の方が、測定を継続してくれている。放射能に関するデーターというものは、専門家が行うものと農家自身が行うものとを並行して進めなければ意味が無い。
一枚の田んぼの中でも、セシュームの玄米への移行は、とても違いがあると言う事がある。その理由については、専門的な研究を経なければわからないことであるが、耕作する者しか推測できない、田んぼの癖のようなものとの、関連も出て来る。平均的な流れでは、昨年と今年との稲のセシュームの減少は2分の1から5分の1くらいになっている。これは、セシウム134 の半減期から来る要素だけではなく、減少の大きさが予想をはるかに超えている。この点では根本先生の報告と同じ傾向になっている。これは、山からの水への流出も、意外に少ないと思われる結果である。根本先生の研究では、土壌への吸着量はそれほど減少していない。つまり、土壌に吸着され、稲に吸収されにくい状態にセシュウムがなったと推測されている。それは土壌中にリンやカリが大量に存在していても、作物にとってリンやカリ不足になる土壌と同じようなことらしい。土壌中の粘土質の粒子と結合してしまう状態なのか。
しかし、昨年水からの移行が水生植物の場合大きいと予測したのであるが、これもそう単純なことではないようだ。舟原田んぼでも、欠ノ上田んぼでも、水を上の田んぼから、順番に下の田んぼに流れて行くような構造を徹底した。しかし、その数値が水口に近い上の田んぼの方が下の田んぼより、数値が低いという、逆転現象がある。同様の結果が、舟原、欠ノ上両者で出ている。ということは、他の要素も様々あり、田んぼ全体での結果はそう単純に現われないと見なければならない。これは肥料の出現の結果という事によく似ている。私たちの自然栽培では、少ない肥料での栽培である。この場合、水温の変化、堆肥の腐植の状態。こうしたものが稲にすぐに表れる。水温が一度高ければ分げつが1本は多く成る。栽培に勢いがあると、肥料の取り込みも大きく成る。セシュームの取り込みも増える可能性がある。又、昨年の稲藁堆肥を入れると言うことは、稲藁に存在したセシュームが比較的取り込みやすい状態にあるようだ。
根本先生の報告では、水に存在しているセシュームでも、混濁態と溶存態がある。水への溶け方で稲の吸収が異なるという推測である。これも単純なものではなく。複雑な要素をがあり、特に8月以降の玄米が吸着して行くメカニズムが大きいようだ。つまり穂肥の吸収を考えて見ると良い。稲の葉や茎にある程度セシュームが存在しても一般にその4分の1位の値が玄米に現われる。実際の栽培においては、この現れる値を下げる期間の限定的技術が重要な気がする。例えば入水口のフィルターを付けるなら、7月後半から、設置することが効果的ではないだろうか。いずれにしても、今回の根元先生の研究は、作物でデーターを取るという、作物の実験方法において、とても重要な方法を示されている。今回の放射能は不幸なことではあったが、福島の全袋調査において、高く出る田んぼが特定できることと、試験田の詳しいデーターとを比較することで、稲の肥料吸収のメカニズムがかなり正確に見えて来る気がする。今後の研究の展開は、日本の稲作技術の科学的農法への転換になるだろう。