早期湛水田んぼ

   

鬼柳の「めだか田んぼ」は市と、県と、市民団体と、で作られている「めだか協議会」において、「あしがら農の会」に管理を依頼された田んぼである。地主さんとしては、5メートル×100メートルという細長い田んぼの残地を、今更田んぼとして管理などしたくない。埋めて欲しいと言う事であった。しかし、脇は都市計画道路になるが、反対側は自然河岸のなかなかの水路で、メダカの生息の色濃い場所である。田んぼとして維持して行く価値の高い場所である。そこで、手植えで耕作するような「市民による耕作」が模索された。しかし、地主さんとしては明確な担い手が無ければ安心して任せられないという事で、「あしがら農の会」が受け皿となった。農の会の存在が生かされた場面である。将来は、桑原、鬼柳地域全体の、田んぼ保全を手がける組織が作られる必要がある。農家だけに、メダカの保全を期待するのはおかしい。メダカは神奈川県では希少な生き物で、市民が市の魚として保全を望んだ生き物だ。

農の会で引き受けるに当って、田んぼの形状にしてもらう。こう言う事を工事を監督している県土木と約束してもらった。田んぼをやるのだから、田んぼで無ければならない。ところが、県土木が約束を果さないまま田んぼの季節に入ってしまった。1、田んぼを平にすること。2、田んぼの土を耕作できるものにすること。3、水が入って出るようにすること。4、農業機械が出入りできるようにすること。そのいずれもやらないまま、今に到った。約束したのだから、交渉し、要求しろという考えもある。どうも私はそれが好きでない。やらないのなら仕方がない。と言う事になって仕舞う。約束を守らない人間に対し、あれこれ、交渉している気分になれない。誠意があれば、まさかこんな結果にはならない。そういう人間と話したくもない。この条件で耕作するしかない。そう思って、来てしまって、いよいよ田植えである。

田んぼに入水口がない。水を取り入れるところは大きな石が積み上げてある。沖津さんがユンボを持ってきて、無償で工事をしてくれた。あり難いことだ、県土木とは大違いだ。入水口として15センチの塩ビ管を埋めてくれた。田んぼには大きな漬物石がごろごろ埋没している。何とか掘り起こしてきた。すごい量の石だ。河原のような田んぼだ。機械が出入りできないという点は諦めた。何かの運命だと思って、全てを手でやることにした。500平米のあらおこし、代かき、を機械力なしでやることは私には無理だ。そこで、早期湛水にすることにした。ところが、水路の嵩上げをしていたら、近所の農家の方から、怒られてしまった。水路を勝手にいじるな。と言う事である。当然の事だ。水路の水位を上げなければ、田んぼには水が入らないことは、当初から分かっていた。生産組合や、影響のある農家には行政から、案内文を作って説明をお願いしたはずであった。それが聞いていないというのだ。

そこで又、水入れが伸びた。何とか了解いただいて、水が入ったのは4月末である。これでは早期湛水にもならない。それでも少々水の力に期待していた。いよいよ、田んぼに入って見ると、固い所と柔らかい所がある。草も抜きやすい所と、とても抜けない所がある。何とかこれを、さらに石を出しながら、代掻きらしきものをやった。結局不耕起の1本づつ植えつけるような、田植えをしなければならない。田んぼにするにはこれ以外に方法はない。幸い苗はとても良い5葉期の1尺苗である。今年を凌げば、来年は冬季湛水が出来る。折角なので、入水口の深い辺りはあやめでも植えたいと思っている。道路脇の目立つ田んぼでもある。美しい田んぼであって欲しい。しかし、こんな馬鹿げたことを、一緒にやってくれる仲間がいる。不思議なものだ。今年初めて田んぼをやることになった人達だ。ありがたい。

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