小麦の価格

   

今年あしがら農の会では杉崎さんが小麦を作った。コッコ牧場でも作った。杉崎さんは出来れば、お茶と小麦で農家経営が出来ないかと、考えて、今年はともかくやってみて、と言う事だった。収穫が終わり、一先ずほっとしたところだが、これを幾らで販売すればいいかと言う事になった。所がこれが難しい。以前暫定的に決めた小麦粉の価格が、1キロ600円と言う事だった。これでは利益どころか、小麦粉はサービス品と言う事になっていたのだろう。結局世間の1キロ200円の価格から、全ての矛盾が始まる。大まかな事を言えば、海外の産地の小麦と、日本の農地で作る小麦では、価格競争などそもそも出来ない作物なのだ。気候的にも小麦の収穫期が梅雨にあたると言う事で、品質的にも、農家の作業としても、厄介な作物になる。結局、私の個人的な推測では、1キロ2000円でないと、作る気にはなれない作物。

小麦の価格の形成は、農政の工夫の集大成のような、不思議な世界である。簡単には見えてこない実に複雑な世界だ。しかも、お米とは違い、生産農家と直接の消費者の取引はほとんどない。粉にしなければ使えないし、地粉と言っても、うどん屋さんや、パン屋さんを経由して食べる場合がほとんどだからだ。お米のように直売方式で、政府の統制を崩してゆく、というような動きも出てこない。価格の裏側が一般消費者に見えないままでも、済まされてきたのが今までの事だ。所が最近パンを焼こうという、新しい事を考える人が増えてきた。その中には、地域の粉はないだろうか。こんな事を考える人も出てきた。うどんの方でも讃岐うどんが注目され、粉を直接購入して、打ってみようなどという人も出てきた。そこで、少し価格の不思議な現状に消費者も気付いてきた。何しろ、200円から2000円の開きだ。少し整理してみる。

製粉会社に売り渡される小麦価格は、平成18年産小麦の基準額がキロ134円(8040円/60kg)シカゴ先物市場の価格がキロ33円ぐらい、となっている。何と私たちがお願いする。製粉代より安い。安い輸入した小麦に調整の上乗せ価格を載せる。その利ざや分が、国内農家の補助金となる。その結果、国内の小麦と輸入小麦のバランスが、とられて、国内産小麦も、せいぜいキロ400円程度までに納まる。その程度の価格では、国内で小麦を作る農家は採算が取れないから、様々な名目の補助金ももらって、かろうじて生産を続けている。主生産地である北海道などでは、間接的に産地形成のための方策がほかにも取られている。その結果が、産地でない足柄地域で小麦を生産することは、産業としては全く不可能になっている。どうしても地元のパンやうどんのための小麦生産して欲しいと成れば、自給用に自分で作る以外、生産者の負担になるだけだろう。

蕎麦屋さんが美味しいソバの為に、長野の豊科に越した。こう言う事がある。同じことで、これからは足柄地域に、美味しいうどん屋がある。そのうどんやさんはうどん用の小麦を自分で作っている。こう言う事になる。パン屋さんは可能かというと、パン用小麦はこの辺では無理だから、たぶんわざわざ作るパン屋さんは成りたたない。この辺が田んぼとは違う所だ。田んぼなら、環境的な保存理由がある。水路を含め、田んぼを維持してゆくことは、日本中どの地域でも、どうしてもやらなくてはならない事業になっている。しかし、お米と違い小麦の生産は北海道を除けば、展望が今のところはない。小麦の生産者に対し、2000円でも支えようという消費者が居るか。うどん屋さんでは1杯のうどんは90グラムの小麦粉を使う。1杯分180円だ。これならソバと一緒で、案外そんなうどん屋さんが登場するかもしれない。

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