のぼたん農園の溜め池
のぼたん農園の溜め池の管理
のぼたん農園には4つの溜め池がある。龍神さまの湧水から湧き出た水が、4つの溜池を作っている。沢沿いに海に向かって徐々に下がるように、溜め池を作った。最初に1番溜め池を作ってくれたのは水牛のわかばである。
わかばが徐々に下に向かって牧場を切り開いて進んでいったときに、樹木がまとまって茂っている場所の下に、小川があることを見つけて、ゴロゴロしながら水遊びをする池を作った。ここに湧水があることは、分かっていたことではある。
この湧き水があるから、この場所を借りて、田んぼをやろうと考えたのだ。7,8年前に石垣島に絵をかきに来ていて、この素晴らしい場所を見つけた。その頃は石垣牛の子供をとる、自然放牧の牧場だった。
牧場ではこの湧水の水を不衛生だとして、飲み水としては使っていなかった。実際には不衛生どころか、縄文時代から使われていた崎枝集落の湧水である。江戸時代にも集落があり、戦後移民の人たちもこの水を頼りに生活をし、開拓を行った。
そのことを知っていたので、ここでは必ず田んぼが可能だと考えていた。その頃借りていた名蔵の田んぼを返すことになり、新しい場所を捜していたときに、この崎枝赤崎の石垣牛の自然放牧の土地が、貸し出されることが新聞に出ていた。
溜め池を作り田んぼを行う。
是非に貸していただき、田んぼを作りたいと考えてお借りした。この湧水があったからである。湧水で田んぼをやれると言うことは、昔からの夢の一つであった。湧いている水量を見て、2反ぐらいの田んぼは出来ると考えた。
2反の田んぼをやるためには、湧水の場所に溜め池を作り、水をできる限り貯める必要がある。そこで、沢沿いに2番溜め池を作り、3番溜め池をさらに作り、最後に4番溜め池まで作った。深さは1m位である。大きさは全部で5〇〇㎡ぐらいあるのだろうか。
予定では3番溜め池と4番溜め池はつなげてしまうつもりだが、まだ堤防から水が染み出ていて、つなげることが出来ないで居る。時々かき回したりして、水が漏れないように補修している。漏れなくなるには1年ぐらいはかかるだろうか。
溜め池の植生
この溜め池に水が溜まり始めたら、すぐにミズオオバコとミズワラビが自然に出てきた。昔からこのあたりに自生していたのだろう。アカウキクサも出てきたかもしれないが、なかなか出ないので、下地さんから貰い育てた。
溜め池には昆虫がいろいろ現われるのだが、オオウナギやスッポンも現われるので、その都度全く居なくなる。残念なことではあるが、それが自然という者なのだろう。いろいろのトンボが来てくれるのは見飽きないくらい面白い。だいたい夕方あたりに来てくれることが多い。
溜め池は熱帯睡蓮の池になっている。ティナと言う睡蓮を購入して入れたのだが、驚くほど増えて、今は1番溜め池と2番溜め池は水面のほとんどを覆われている。ティナの花の美しさは素晴らしいもので、独特に世界を作り出してくれている。
池の周りにはヒカゲヘゴがある。このヒカゲヘゴと熱帯睡蓮との調和が絶妙に見事である。ヘゴが生長するたびに、より雰囲気が高まってきている。ヘゴがこんなに強い光の下で生長するのか不思議なことであった。どうも日陰を作るヘゴという意味らしい。
蓮栽培
睡蓮だけでは面白みが少ないので、3番、4番溜め池は蓮池にしたいと考えている。台湾で田んぼで蓮栽培している黄さんという方がおられる。台湾で2番目に大きな有機農業の農家だ。阿聰と言うところにある
この方は蓮田をされているのだが、蓮はレンコンを売るのではなく、蓮の実を販売しているのだそうだ。蓮の実の方が、作業が楽だから良いと言われていた。特に栽培管理をすると言うこともなく、実だけを採れると言われていた。
そこでのぼたん農園でも蓮の実を栽培してみようと考えた。蓮のみも実際には実の大きく美味しい品種とかあるのかもしれないが、まずは蓮栽培をしてみてからと思い、大分の水生植物のお店から取り寄せて、植えてみた。
すぐに成長を初めて、今は大きな葉を出している。この調子であれば、間違いなく、今年の夏の間には花を咲かせるはずだ。睡蓮は一年中花を咲かせているが、蓮の方はどうなるだろうか。長い期間花を咲かせてくれれば有り難い。
まだ試験栽培だが、うまく行けば、3番と4番溜め池のあちこちに植えるつもりだ。睡蓮は1番と2番にする。水牛池の方にも植えても良いのだろうが、水牛が押しつぶしてしまうのだろうか。たくさん増えたならば試してみたいと思っている。
蓮の実のお菓子
蓮の実を使ったお菓子を考案したい。黒砂糖をまぶしたお菓子を作りたいと考えている。台湾には糖蓮子(トウレンシ)というお菓子があるらしい。見たことはあるが、食べたことはない。今度台湾に行くので、買って食べてみたいと思っている。
糖蜜を作り、蓮の実をそれにつけ込み、乾かした物を想定している。台湾のものは甘納豆のように、煮込んでいるらしいが、それでは小豆などの豆とあまり変化がないだろう。蓮の実の素材の味を生かしたお菓子を考案したい。
溜め池と水彩画
溜め池を作りたかったもう一つの理由が溜め池の世界が絵になると言うことである。モネが睡蓮池を作った理由が分かる。池というものはすでに画面のような世界なのだ。池を見ていると絵を見ているような気持ちになる。
池が神聖なもので、神が宿るような場所だと言うことは実感する。特に湧水による池は別格な場所になるような気がする。のぼたん農園の竜神池は人間の暮らしを支えてきた場所である。何千年もの間、ここで人間が暮らしてきた水である。
その大切な水が緊張ある張り詰めた場を作り出している。命の泉である。この大切な水で、稲作りをさせて貰っている。ありがたさで見る者も緊張する。立派にのぼたん農園を作り上げることが、与えられた役割なのだと思う。
その池を絵に描く。水牛が作り、自分が作ってきた池の絵を描く。このことが自分の絵というものを育ててくれるような気がしている。かけがえのない世界を描かせて貰っている。それは本当はどこでも同じはずなのだが、やはり作り睡蓮を育てている池は別格な気がする。
池を水面の高さで見ることが出来ると言うことが良い。真上から見る行けも良い。斜めからも良い。そして水面の高さまで眼を下げてみると、またこれが面白い。水面に映り反映する色彩が実に豊かになる。
池を作り始めてから、4年が経過し、やっと自分の中に記憶の池が出来た。この池を描きたいと初めて感じるようになった。まだ十分とは言えないが、先日水彩人の春期展に出品させてもらった。いくらか手応えはあった。
毎日のぼたん農園で思う存分絵を描かせて貰っている。安心して絵が描けることが幸せである。どう言う絵が出来るかより、思う存分絵を描ける場があると言うことが、すばらしい。湧水のおかげであり、溜め池のおかげである。