照屋三線伝統工芸士
私の三線は沖縄の照屋勝武氏という伝統工芸士の方に作っていただいたものである。一度三線の調整をしてあげるからと言われていたので、今回お邪魔をした。照屋氏は三線の演奏家でもある。三線の練習の仕方も教えていただいた。どのようなところを大切にして、練習してゆけばいいかを知りたかった。照屋氏の三線制作のお話は実に論理的で、合理的で、実践家的である。見てみろここが盛り上がっているだろうといわれて、見てみた。正直よくわからない。駒の作り方を見せていただいたが、三本の糸の違いで、馬の上にある糸の通る溝の深さを変える。そして糸の響きが、共鳴する胴にチーガという部分に、うまく伝わるように極力薄く、正確に削り落としてゆく。素材は竹が一番だそうだ。すごく切れ味のよい、小刀で手際よく、調整してくれた。駒を立てた時にくり抜きの部分が実に美しいアーチ形になっていた。
照屋さんの三線はよい調子で、問題ないということだった。私には問題があるのかないのかさえ分からないのだ。実は今回、もう一つの三線を見てもらうことをお願いした。一番太い男糸ウージルがビビリ音が入りやすいのだ。演奏法が悪いのか、竿の問題なのか、もう一つわからないところがあり、それを見てもらえないかとお願いした。照屋さんにほかの誰ともわからない三線を見ていただくというのは、あまりに申し訳ないお願いであったが、特に音色については気に入っているものなので、何とか直していただきたかった。照屋さんは引き受けてくださった。演奏をまずしてみて、原因はやはり竿だということで、竿を外して、誰が作ったものか見当がついたようだった。頂点方向から通してみてふくらみ部分ができていると言われた。見てみろと言われたが、それが見えない。あるだろ膨らみがといわれるのだが、私には見えなかった。見えるということには、名人の目が必要である。制作上の問題なのか、竿が時間経過で、動くこともあるといわれた。さっそく削って直してくれることになった。
紙やすりの600番ほか、3種を使い、徐々に削った。そして、車の艶出しワックスをつけて磨いた。磨きながらまた仕上げに削った。そして、さらにチーガの差込口が緩いということで、板をはりなおした。竿とチーガが触れる部分は、音が伝わる重要なところである。わずかな空気の抜けも、問題が出る。だから、その支えになる膨らみの部分の形も、適切なものでないとよい音にはならないということであった。これを弾いてみろということで、まだ塗りのない三線を見せていただいた。竿の形が違うのはわかった。静かな、音である。響きはむしろ抑えられているのだが、とても雑音のないというか、深くしみいる余韻である。この音の良さは、竿の作りにもあるが、それは小さいことで、チーガに張られた蛇皮に違いがあるといわれた。1匹の蛇から、8枚か9枚の皮が取れて、尾に近いほうから1番、2番と番号がつけられていて、3番までが表皮につかえて、あとは裏側に使うそうだ
張られた様子でこれは何番だから、張り替えれば音はもっとよくなるといわれた。私には、張られたものが、何番の皮かなど全く見分けられない。ここまで見える人は少ないと思う。不思議な見え方だ。大きな蛇皮を見せてくれて、その説明をしてくれた。そして、ここに爪があると、尾にいちばん近いところを15ミリほど切ってくれた。記念に三線ケースに入れておきなさい、ということでいただいた。確かに蛇には爪がある。これは私にも見えた。今回は、ティーガーという胴の周りを飾る布を、読谷花織のものに変えた。この花織は、素晴らしい歴史と物語があるもので、一度消えたものを、京都に残っていたものを詳細を調べ、一人の女性が子供のころの記憶をたどり、復活したものだ。その布も今では、伝統工芸館で保存維持している。着物を作り端切れが出た時に、ティーガー作るのであまりないものなのだそうだ。