玉子と土といのちと
「玉子と土といのちと」著者:菅野芳秀氏(創森社1500円)日曜日の夜、小野田さんの呼びかけで、菅野さんの出版記念の集まりが、四季亭であった。山形の長井市から来ていただいたというので、迷惑をかけていなければいいのだがとちょっと心配でもあった。アジア農民交流センターのの関係の集まりを兼ねてということもあったのかと思う。タマネギ畑で涙して―タイ農村ふれあい紀行― 山下惣一氏の出版を機会にできた集まりらしい。らしいという範囲なのは、この会には入っている訳ではないので、あまり詳しくは知らない。以前、山下氏もこのあつまりで小田原まで来てくれた。その機会に、あしがら農の会の若い人も、一緒に交流することが出来た。とても感性の鋭い方で、すぐに農の会の方向性を理解してくれた。分かりにくい農の会をすぐ理解してくれるということは、どこかこのアジア交流センターという組織は、志が通じているようだ。
山下さんは百姓の親父らしい、辛辣なところがあり常に本音である。その点菅野さんはエンターテイナーである。あまり百姓風な人ではない。話はとても面白いし、配慮も生き届いた方だ。長井市でレインボープランを立ち上げた方なのだから、当然、人間の幅も広く柔軟な方のはずだ。誰にもわかりやすい配慮をしてくれる。早速この本を読ませていただいた。いたるところ養鶏農家の暮らし、毎日のだいご味のようなものが詰まっている。農家の面白さがとてもいい。文章も実に分かりやすい。良く良くわかったことを書いているから分かりやすい。菅野さんを知ったのは、現代農業に養鶏法を連載されたとき、質問をした。菅野さんが養鶏に入ったのは、現代農業で中島さんの自然卵養鶏を読んだためらしい。現代農業の橋渡し。菅野さんらしく、新しく始める人への同情心や思いやりがとてもある。養鶏をやる人の、心構えというか覚悟のようなもので、びしっと通っていると感じた。
家に帰ると、自治会長と副自治会長が、私の養鶏場が臭うから、注意してほしいということで見えたという。本当にびっくりした。お二人とも、直接にくさい臭いをかいだ訳ではないらしいかった。そういうことが、あったという苦情が自治会に行ったらしい。私の養鶏場が臭いがするなどちょっと信じられない話だが、臭いというのは、感じる人には感じられることで、個人差は大きい。私が慣れてしまっているということもある。なかったこととはとても言えない。感じる人には、つらいことである。しかし、今の状態の臭いで、困ると言われるなら、もう鶏を飼うことはやれないということだけは間違いがない。それはそれで仕方のないことなのかもしれない。いまのところ原因はわからないのだが、たい肥を畑に蒔いた時の臭いだったのではないか。と想像している。たい肥も作れない、使えないという状態が近付いているのかもしれない。農業の継続はなかなか困難になってきている。
本の中の菅野さんがうらやましいと感じた。大きな農家の方である。昔からの地域の農家の方で、息子さんも後を継いで、いまや中心となって農家をやられているらしい。これなら、鶏も、菅野さんも空を飛ぶことだろう。朝日連峰の麓で悠然と1000羽の鶏と3町歩の田んぼを続けられている姿。当たり前のようなことが、実は奇跡的なことになろうとしている。日本人がどのようにして暮らしてゆくのが、幸せなことなのか、この本には山ほど詰まっている。鶏の幸せと、菅野さんの幸せが一つになっている。その幸せな姿こそ当たり前だった日本人の暮らしにつながっている。循環して行く暮らし。平和に暮らす生き方。読んでほっとした。落ち込んだ気持ちが、支えられる気がした。