トランプ、大学を恫喝
2025/05/29
トランプがハーバード大学を攻撃している。留学生を排除しろと言うことが直接的な主張だ。留学生問題を掲げて攻撃し、大学を自分の言いなりにしようと言うことなのだろう。ハーバード大学が象徴するエリート層の、民主主義をつぶそうとしているのだ。
自民党政府が、学術会議を攻撃しているのと似たような動機なのだろう。独裁的政治家という物は科学的な論理をさげすむようだ。アメリカ社会を支配してきた民主主義やグローバリズムの結果、アメリカ社会の中で追いやられてきた白人労働者階級の不満を代弁している。
ハーバードエリート層が政府を支配し正しく、政治を動かしてきたその結果、仮想に追いやられたアメリカの白人層がいる。その大便をトランプはしている。民主党が論理的にトランプ政治を批判することが、気に食わないのだ。エリート社会への不満、日本でも先日東大前駅で通り魔事件があった。
ハーバード大学には30%を超える留学生がいるそうだ。素晴らしいことだと思う。こういうことがアメリカを世界一豊かな国にした主たる要因である。世界中の優秀な人がアメリカで共同研究をして、世界のシンポに貢献してきた。学問の成果は一国のものではない。
中国は世界の優秀な人材を集めるために、大学に好待遇で世界中から人を集めている。日本では優秀な大学院生が、就職できずに行き場を失う状況である。多くの人材が中国の大学に就職している。当然それは日本人だけではない。中国はかつてのアメリカの状態を再現しようとしている。ハーバードを中国に作ろうとしている。
政治と学問が対立すると言うことは、良く起こることだ。憲法学者の大半の人は、自民党の憲法拡大解釈の法改正を、憲法違反と考えて居る。しかし、政権の政治家達は、そんな学者の戯言を聞いていたら、中国が軍事侵攻してくるに違いないと国民を脅かすように喚いている。デマによる世論誘導を右翼勢力が盛んに行う。
中国が本当に攻めてくると考えている専門の研究者はほとんどいない。論理的に考えれば、中国が軍事侵攻を行う可能性はない。私の知る限り、日本会議系の極右扇動家が、日本を軍事大国にしたいがために、国民を中国仮想敵国説で恫喝しているに過ぎない。アメリカの日本を防波堤にする戦略のお先棒を担がされているだけなのだ。資金も流れているはずである。
日本の政治家の大半は、アメリカとの同盟に依存しているから、中国が軍事侵攻するほど馬鹿ではないと、考えていても、一応はアメリカに対して、忖度をして仮想敵国中国を口にする。しかし、本音では中国との関係を模索しなければならないと考える政治家も多いはずだ。その動きは表面化しにくい形で行われていると、想像できる。
学問が正しいが為に、政治はその力を弱めようとする。人事で操ろうとしたのが、あの菅元総理大臣である。もちろん学術会議の人事のすべてが公正な物とは全く思わない。農業分野で言えば、農薬の安全性を研究をする学者の方が、危険性を研究する学者よりも、学術会議の会員に成れると、研究者だった叔父聞いたことがある。
有機農業の研究者よりも、企業農業の研究者の方が、学術会議の会員候補としては、評価されるのだろう。政治の支配は受けないとしても、経済に支配されているのが、日本の学問の世界である。産学共同でなければ、資金が必要な研究はできなくなっている。大型コンピュターを必要とする研究であれば、研究の認可さえ難しい。
経済性のない淡水魚の研究をしていると自ら言われていた、金沢大学の理学部の教授が、経済と関係がないからこそこの研究をしていると言われた。象牙の塔に閉じこもりたいという願い。経済性で動かされない場所で研究を続けたい。こうした変人ともいえる学者が学問の世界の先端を切り開いている可能性がある。科学がどこから切り開かれるなど、誰にもわからない。だからより広い間口で学問は取り組む必要がある。
本来の学問は経済とは関係のないものだ。そうでなければ学問の独立性が失われる。直接経済とは関係のない学問はいくらでもある。美学や詩学や哲学や宗教学、まだまだ経済と縁の薄い学問はある。倫理学という物があるのであれば、むしろ経済にとって有害な学問と言えそうだ。トランプはそう考えているに違いない。
日本でも産学協同が推進されて、学問がゆがめられている。農業分野であれば、経済性のない品種改良が軽視されている。沖縄の稲品種がないのは、まさにそう言うことだろう。沖縄の稲作の面積を考えれば、研究費を投入する価値が少ないと言うことになる。企業であれば、沖縄向き稲品種の改良は採算が合わないと言うことになる。悲しい事実である。
学問はそれでは行けないと思う。日本という範囲では経済性がないかもしれないが、人類という範囲で見れば、亜熱帯稲品種の研究は是非やらなければならない研究である。何故、石垣にある、熱帯農業研究所がそうした研究を怠っているのかが不思議である。たぶん政府が研究費を付けない。あるいは研究者自身が経済性が薄い研究分野に熱意が持てないという、学問の世界があるのかもしれない。
日本でも東大の大学院生の3人に2人が中国からの留学生だと言うことが書かれていた。信じがたい数ではある。東大の留学生は5000人超で、その大半が中国人。特に大学院の3500人以上が中国人とされ、国立大学に中国の留学生が多いとされる。何より競争が熾烈な中国でトップレベルの大学に合格するのは並大抵ではない。
それに比べれば東大の入試は「簡単」なのだそうだ。中国には東大を受験する日本語で教える高校があるという。中国人留学生が増えるのも当然だろう。 一方、日本政府も留学生の受け入れ拡大を掲げ、東大も近年、留学生数を増やしてきた。少子化が進む日本では学生の数が減っている。大学間の国際競争に勝つという意味でも、留学生が多いことは、喜ぶべきことであるはずだ。
日本の国立大学に中国人が増加していることを、喜ぶべきことだと確信している。大歓迎である。学問はより多くの人で切磋琢磨することで、深まってゆく。日本は日中関係を大切にしなければ成らない国である。優秀な中国人が日本に留学し、日本をよく知り、日本で活躍してくれる人も出て来ている。これは日本の希望の一つである。あるいは中国に戻り、日中の架け橋になる人も現れるだろう。
これは夢物語ではない、戦前日本に学んだ中国人は多数存在する。台湾の李登輝氏は京都大学で学び、台湾を民主主義国家として繁栄に導いた。巧みな政治手腕で、台湾を独立国に成長させ、経済繁栄を導いた。そしてきわどい状況の中日本との関係を構築した。これは両国にとって素晴らしい結果である。
革命の父と呼ばれる孫文は1895年、孫文は日清戦争が終わった年に初来日し、1924年までの約9年間日本に滞在した。孫文自身日本を「第二の故郷」と言っている。孫文にとって1905年に清朝を倒すための中国同盟会が、1914年には袁世凱と闘うための中華革命党が結成されるなど重要な場所となったのです。
梁啓超、孫文、陳独秀、周恩来、蒋介石、魯迅中国からの留学生は、1905年には8000人、翌年には1万人前後まで急増する1921年、中国共産党が創設される。立ち上げたメンバー13人のうち4人が日本留学生だった。李漢俊、李達、董必武、周沸海とある。中国人の多くが近代化の方角を日本で学んだのだ。
現代の中国人が教育熱心なことはよく知られている。そして中国の大学はその受験があまりに難関になっている。そこでまだ易しい日本の大学を目指そうという人たちがいる。東大が優しいというのだから、その優秀なことはけた外れである。そこには中国人の国際的な感覚がある。海外に出て暮らすことを全く恐れない。それは様々な職種の人も居るし、優秀な学生も多数存在する。
2025年の日本で学んでいる中国人が、日本と中国の関係を改善してくれる可能性は大きいだろう。そうなるためには、日本人が中国人に対して温かく接することである。それは特別なことである必要はない。普通に人間として、接することで良いはずだ。それがこれからの日中関係の改善に必ずつながる。中国は習近平だけで出来ているわけではない。
人間一人一人の関係であれば、国の利害を超えることが出来る。トランプの狭い1国主義はアメリカを孤立させて行くことになる。目先の利害だけで判断することが、アメリカを衰えさせることになる。もちろんそれはアメリカの勝手なことだし、日本人はアメリカ留学など止めた方がいい。アメリカの大学に進む予備校的高校が日本にもあるが、これからは悪い方向に進むことになるだろう。
私はフランスに3年だが留学した。フランスの美術学校でヨーロッパの芸術としての絵画を学んだ。そこにあるのは商品としてある絵画ではなかった。絵と精神の問題であった。ただただ描く日々をいただいた。毎日学校帰りにルーブルに行った。毎日マチスやボナールの絵と自分の絵を比べていた。最高の美術に触れながら、自分の絵を模索する時間が持てた。これほど濃い時間はなかったと思う。
美術学校もルーブルも無料であった。有難いことであった。あの頃のパリの美術学校にはたくさんの日本人がいた。今ではボザールでは中国人や韓国人が絵を描いているらしい。こういうことが、いつか中国が変わる可能性になるのではないか。学問も芸術も国境などない。世界が良くなるためには排除ではなく教学である。