藤井聡太7冠は一勝で8冠
藤井将棋はすごい。王座戦の3戦は目が離せなかった。将棋はユーチューブでいくらでも見る事ができる。解説付きなのだが、解説もどうしてもAIの形勢判断に引っ張られてしまう。どれだけ強い人でも、AIよりも弱いのだから仕方がないとは言えるのだが。
これまでの3戦どの戦いも、永瀬王座が押している。3連勝で王座防衛すらあり得た。ところが藤井聡太7冠は持ち堪えて、最終盤に覆して2勝1敗とした。全体のこま配置が、もう藤井7冠には後がないという印象では確かにあった。私も藤井負けかと見ていた。ただ永瀬王座がこの先どう勝てば良いのかは見えなかった。
ここからの終盤の1分将棋は永くなると思っていた。ところが、王手で敵陣深く打ち込んだ藤井の飛車打ちが勝負手になった。永瀬はより慎重な手段として飛車で王手を受けたのだ。永瀬王座は勝ち急がない棋風だ。より確実な受けを選んだ。
ところがこの飛車打ちの受けが敗着になる。この手を見て、解説も失着という解説であった。それはすかさず打ち込んだ角の両金取りが絶妙主になったからだ。何故飛車ただ捨ての発想が、ちょっと読み落とししやすい手段だった。
何故歩合いで受けなかったのかである。常識的には歩合いの場面である。弱い私ならためらわずに打つ。歩合い以外に考えない。飛車で王手を受けるという場合は時にはあるが、飛車が飛車を取り返す以外に手段がない場合だけだ。ところがこの場面では何と飛車取りを無視して置いての角打ちの、両金取りが残っていた。
これで一気に藤井五分に戻す。ところが永瀬王座は気落ちしたのか、ここから2手負けを早める手を指してしまう。粘り強い永瀬王座にしては意外な終盤である。やはり、3一に歩合いすればと言う後悔の心理が残ったのかも知れない。失着が次の失着を生む。良くあることだ。
なぜ3一の歩を打てなかったのかが、ネットでは盛んに議論されている。その理由は95%と言う評価値が一気に逆転して進んで、敗戦になったからだが、実はこの評価値はAIにありがちなことで、この後に永瀬王座が実に難しい飛車を敵陣深くに打てば勝勢だという話であった。
この飛車打ちは普通の人間には気付くものではない。気付かない手を気付いているAIは永瀬95%勝勢を出していたのだ。しかし、もちろんその手が見えない私は、一体永瀬はどのような手段で、勝ちに行くのか分からなかったから、難解な局面にしか見えなかった。
解説の人達も、深浦9段だったか、もう永瀬勝ちのように言ってはいたが、どんな筋で勝ちに行くかの読みはなかった。ところが、まったく驚いたことには、感想戦の中で、この永瀬の敵陣深くの王手の飛車打ちを藤井7冠が指摘をしたのだ。これには永瀬王座も衝撃だったことだ。
この手を読んでいたから、藤井7冠は逆転をかけて、飛車打ちの王手をかけたのだ。もしかしたら、永瀬王座が見落としている可能性にかけたのだろう。AIの判断は、こうした普通あり得ないような、まさか敵陣に打ち込む王手が、受けに繋がるなど想像が難しい。
AIは人間の発想では奇手と言えるような手段を根拠に有利不利を決めていることが案外に多い。その手が読めないとすれば95%の優勢もまったく意味が無い。将棋はAIによって変った。盤面を広く読むというのは昔から言われたことだ。
藤井将棋の妙はあらゆる場面で、全体を見ていると言うことだ。この視野の広さが人間離れをしている。寄せとか、受けとか、発想を限定して読んではいないのだ。AIの読みの特徴は発想に先入観がないと言うことだろう。先入観が人間の読みを制限している。
人間は成功体験に縛られる。特別な勝ち方をした経験が、脳内に残る。類似場面ではその成功体験故に、飛車受けをついしてしまったのではないだろうか。