嘉田良平四条畷学園大学教授の講演会

   



 嘉田良平教授は地球総合環境研究所に所属、四条畷学園大学の教授。「環境保全型農業」を提唱された方である。持続可能な農業を研究されてきた。石垣島では環境に大きく影響する、大型観光施設の開発がいくつも提案されている。ゴルフ人口は10年で30%の減少である。消えて行くものと考えた方が良いくらいのものだ。

 観光で成り立つ経済の島である以上、どのような環境に調和した観光開発が、石垣島に必要に成るかを視察ということで来島されたのではないかと思う。特に農振農地を観光施設に転用する事が許されるのかどうか。そもそも補助金を使い農地に整備した場所を、ゴルフリゾートにすることに問題が無いか。環境農業の専門家として興味を持たれているようだ。

 この折角の来島の機会にお話を伺おうと言うことで、名蔵アンパルの会が講演会を企画した。6時からの講演会だったのだが、のぼたん農園の作業終わりを気付いたのが、崎枝では6時になると夕方の家に帰りましょうの放送が流れてである。6時であわてて大浜記念館に急いだ。

 ところが、途中名蔵の集落まで来ると、とつぜん道路に手を上げる人がいたので、車を止めた。「水彩画を描いているのだが」と言う突然の話だった。急いでいるときに限ってこういうことが起こるものだ。仕方がないことなので、さらなる後れを覚悟した。

 アトリエカーを新聞で見たというのだ。有り難いことなのだが、いま急いでいるとも言えず、あせりが顔に出ないようにしばらく話を聞いた。いっしょに描いてくれないかという希望だったのだが、ちょっとそれは無理なのでお断りするほか無かった。

 絵はどこで見れるかというので、4月号から「月間やいま」に載せて貰うからと話した。近いうちにアトリエ展を考えているという話をした。本当にアトリエ展はやる必要がある。人口5万人の島ではだいたいの人は知り合いになるのだろう。しかし、その呼び止められた方も様子から、やはり移住者のようにお見受けした。

 遅れて、嘉田教授の大浜記念館の講演会場に着いた。今度は駐車場が満員で他の駐車場に回るほか無い。やっとの事で会場に着いた。お話は一般の人向けの、日本の農業の課題と環境への影響の解説と言うことだった。

 食糧自給率37%の問題点。食の安全が脅かされている海外の食品に対する情報不足。里山経済学と中山間地の保全の意味。そういう農業に関わってきた私としては当事者なのでもう少し突っ込んで解説して欲しいところが満載だった。

 お話はよく納得できる日本の農業の危機ということであった。一番お聞きしたかった環境と農業の関係については、詳しい話まではなかった。この危機的な農業の状況をどうすれば抜け出せるのかという論点が今ひとつ曖昧な気がした。そこまで話す時間も無かったのかも知れない。

 それで農業には環境破壊型もあれば、環境保全型もあるのではないか。特に水田農業の重要性を少し聞かせていただきたいと質問した。沖縄で起きた、水田を潰してサトウキビにしてしまった背景が知りたかった訳だ。

 石垣島では、いよいよここに来てサトウキビが限界に達した。日本は国際競争力のある農産物を提唱して、37%の自給率になってしまった。サトウキビはまさに国際競争力の無い作物である。補助金を付けてサトウキビへの転作を促したのは政府の方針だった。サトウキビこそ環境には余り良くない農業である。

 石垣島製糖工場は50年前の施設である。立て替えが問題になっている。石垣島ではサトウキビについては、悩ましすぎる問題で、一種のタブー化しているのだ。この工場は古すぎて環境対策も不完全である。排水の汚染があると言われている。本来であれば、操業を止めるべき状況という人もいる。

 それなら建て替えるべきなのだろうが、黒砂糖は斜陽産業である。沖縄島嶼部のサトウキビは売れないで在庫が山住になっていると新聞には書かれている。サトウキビの補助金も年々減少が続いている。このさきの展望はたぶん当事者自身にとっても、見通しが立てにくいくらいなのだろう。

 ではサトウキビを止めて、次なる作物があるかである。もっとマンゴーで頑張った方が良いと、会場から意見が出ていた。そもそも、政府が1960年代に行った減反政策で田んぼからサトウキビへの転作奨励に問題があったのだ。

 かつて田んぼだった場所は田んぼに戻すべきだ。田んぼほど環境に調和する農業は無い。田んぼが増えれば石垣島の水資源は豊になる。問題は田んぼを産業として成立させる経済性が無いところだ。サトウキビと水田農業は同じくらい厳しい。

 しかし、稲作農業は主食の産業である。主食を自給する人を育てるべきだ。もし、準備がされていれば、田んぼをやってみたいという市民はそれなりにいる。人口の3%は必ずいる。石垣島には必ず1500人はいる。どんなものでも3%の人は興味を持つ理論がある。

 実際に水田を始めて見て感じているのは興味を持つ人が、小田原よりも多いと言うことだ。特に若い移住者の方の中に、農業への関心が大きい。主食を自給するような生活を求めて、石垣島に来た人も少なくな
い。稲作が誰でもやれるものだと言うことを分かって貰うことだ。

 1500人いれば、一人0.2平方キロだとすれば、150ヘクタールは耕作できる。つまり石垣島で現在行われている水田の半分は市民が自給のために使えると言うことになる。半分は企業的経営の大規模農業法人が継続すると見れば言い。

 水田が維持されることが観光に繋がると考える必要がある。東アジアの伝統的水田農業である。水牛を使い農業が行われる。環境に調和した農業の提案。湿地として考えられる農業。自給のための農業であれば、農薬は使わない。化学肥料は使わない。

 自給のためのイネ作りは、誰にでも出来る簡単なものだ。道具など簡単なもので、機械などまったく使わないで出来る。一日一時間の労働で可能だ。のぼたん農園でその実践を見て貰える。のぼたん農園はその体験農場である。世界から、自給体験のためにのぼたん農園に来るようになる。ゴルフよりも未来の観光産業だと思う。

 嘉田教授にもそのことは理解していただけただろうと感じた。イネ作りは環境保全型農業では無く、型を取った環境農業といって良い。その地域の環境の多様性を作り出す農業が稲作農業なのだ。その環境農業を担う人は市民である。
 

 - 楽観農園