2、発酵養鶏を始める。(大豆の会の通信原稿)

   

 鶏を長年飼っていた。良い養鶏を行うために発酵を利用することになった。発酵を利用した餌を作り。発酵させた床の上に鶏を飼育した。発酵を利用しない限り、よい養鶏はできなかった。
 
 良い卵とは何か。良い卵とは産まれてから、2か月以上生きている卵である。保存しておいて、2ヵ月してから孵化を始めても雛が孵る卵である。自称良い卵を、購入してみて孵化すれば本物か偽物かわかる。全く孵らない卵だっていくらでもある。鶏仲間の間では、卵は1週間たつだけで孵化率がぐんと下がると言われている。
 
 そして、鶏の飼育法を様々工夫するなか、発酵利用の自然養鶏に至ることになる。餌には2種類の発酵飼料を使う。発酵には大きく嫌気発酵と、好気発酵がある。麹菌は好気発酵である。味噌の発酵は嫌気発酵に近い発酵で熟成させられる。酸素を好む菌類と酸素を嫌う菌類がいる。この両者を組み合わせて使う事で味噌はできる。
 卵も同じである。卵の生命力が増していった。こうして発酵飼料を使う事で、2か月生きている良い卵が出来た。良い卵から産まれた雛は、元気に育ち、長生きしてくれた。この経験から発酵というものは生き物の元気に大いに関係するという事に気づいた。そして、自分の食べるものも発酵食品が大切だと考えるようになった。
 
 発酵の勉強をしたことは特別にはない。鶏の良い卵をとるための工夫の中で発酵という方法にたどり着いた。鶏は自分の家で孵化をしていた。自家作出鶏の笹鶏である。良い卵でなければ、よい雛は生まれない。当たり前のことだろう。
 
 では良い卵とは何か。元気な卵である。生命力の強い卵である。黄みの色がどうであるとか、黄みが盛り上がっているとか、黄みが濃厚であるとか、そういうことは孵化できるということとは関係がない。有精卵を10個孵化してみて、何個孵るか。有精卵を何日保存して、孵化できるか。3か月保存して孵化できる卵が最高に良い卵なのだ。
 
 良い卵として売られている有精卵を孵化してみるとわかる。まず孵化できる卵がほとんどないだろう。私もあちこちから購入して試してみた。最高の卵などとの能書きばかり大げさな卵が全く孵化できなかったことが普通であった。
 
 良い卵を模索する過程で、発酵というものに出会うことになる。良いと思われることを何でもやってみては、卵を孵化してみた。この繰り返しを30年続けることになった。ますます、発酵の迷宮に入り込むことになった。
 
 発酵は分からないことばかりであった。しかし、3か月生きている卵は作ることができた。このよい卵から学んだ。おいしい卵の味とは、3か月生きている卵の味だ。濃厚だとか、味付け卵とか、孵化もできない卵の味をおいしい卵とすることは、人間の味覚のゆがみということだと考えるようになった。
 
 おいしいものが、身体によい食べ物であるというまともな味覚に自分を改善しなければならない。と考えるようになった。良い卵の味はかなり淡白な味わいである。私のところの卵が雑誌やテレビで取り上げられることが何度かあった。そのたびにグルメという人が訪れては、どうしても食べたいというのだ。そして、どの人も一度きりになった。あまりに物足りない味にがっかりしたにちがいない。
 
 人間は暮らしに余裕が生まれ、より濃厚な味をグルメとして受け入れるようになったのではないだろうか。その結果、健康に悪いものであっても、おいしいものというゆがんだ味覚文化が育ったのかもしれない。
 
 鶏にとって卵は命をつなぐ要である。良い卵はおいしいという以前に生命力が強くなければ命をつなぐことができない。生命力が強いと、味が濃いということを混同してはならない。卵を食べるということはその強い生命力をいただくということなのだと思う。
 
 だから、強い生命力を味わおうと思った。その味から、もう一度最初の人間の身体に良い食べ物の味を学ぼうと考えた。だから、おいしいで卵を売らないことにした。おいしくないかもしれないが、この味から命の味を学んでほしいと。この静かな命の味こそ本当の食べ物だということ。
 
 良い卵を作り出す方法は発酵だった。一つはサイレージと言われる家畜の飼料製造法である。牛や馬の飼料に草をサイレージする方法がある。牧場につきものの高い塔である。高い塔には草が詰め込んである。草は嫌気性の状態で乳酸発酵をする。この乳酸発酵させることで資料の価値が高まる。
 
 鶏にも同じことをした。生草の代わりにお茶殻を使い、発酵菌材料としてヤクルトのミルミルを加えた。ビオフェルミンを加えてみたこともある。お茶殻だけではなく、ミカンの搾りかすも始めた。そして、オカラもサイレージした。
 
 この3つの発酵飼料は、そのままでは好んでは食べないものを、鶏は真っ先に食べるものに変える。もう一つ行ったのが70度以上の高温で発酵させる、好気発酵である。高温化することで安全で良質な資料を作り出すことができる。
 
 特に魚のあらを鶏の飼料に使うことは昔からあった。しかしあらを煮たものを食べさすと卵は臭みを増す。鰹節は生臭さがなくなる。鰹節の発酵を再現するように、魚のあらを発酵して使うということにした。卵に臭みが映らないことに成功する。次回は鶏の餌から人間の餌に、話を進める。
 

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