小田原有機の里づくり協議会

   

小田原有機の里づくり協議会が出来て10年が経過している。小田原市長が代表であり、小田原市が事務局を担当している。そこに加わっている小田原の有機農業にかかわる4つの組織がある。それぞれ独立した農業者の組織である。4つの団体が、それぞれ行っている活動を協議会の目的にかなうものにまとめ上げ、国に事業申請してきた。あしがら農の会であれば、有機のコメ作りの緑肥の効果の実証実験を担当してきた。しかし、国の農業政策が変わり、有機農業の技術的な研究より、直接的な業績の向上が求められるようになった。有機農業を行う農家数や、耕作面積の増加、売り上げの増加等が協議会にも要求される。残念ながらこのような目標は無理になっている。有機農業の農家の老齢化も顕著である。農家数の減少も年々拡大している。この状況を打開するためには、有機農業だけの取り組みでは解決はできない。国の農業政策の方向が変わるまで、現状では有機農業の基礎的な技術の蓄積をすることだと考えてきた。農業者の中の有機農業に取り組む人の比率を高めることを、当面の目標にするべきである。

有機農業の普及を妨げているのは有機農業の技術的整理だと考えている。有機農業は最も優れた農法だ。技術さえ理解されれば、一般農家であっても取り組みやすい優れた技術である。分かりやすい有機農業技術を提案することが有機農業の普及につながると考えて活動してきた。その成果は稲作においては出ている。今年作った、「有機のコメつくり」冊子にはその成果を示した。有機農業は一般の農業より収量が上がるという事だ。確かに手間はかかる。しかし、ふつう行われている農業よりも生産性が高い。このことを実践として証明しなければ、有機農業の普及は不可能だと考えている。農の会の稲作では神奈川県の平均収量が7俵台である中、畝取りを達成している田んぼもある。有機農業の優秀さを示す事例が、近年日本全国で現れている。あしがら農の会としては、大規模化できない中山間地や、都市近郊において、小規模農家の方向性として、畝取りできる有機農業稲作技術の確立を行うことが、有機の里づくり協議会の役割と考えている。今年度有機のコメ作りを冊子にまとめ、有機農業学会で報告させて頂いた。

有機農業が何故普及されないかについては、明確な理由がある。日本農業自体が衰退してゆく状況が背景があるからだ。この中で、政府は大規模農家中心の農業経営を考えている。手作業の占める割合の大きい有機農業は大規模農業には向いていない。都市近郊の小規模農地における農業経営は難しいという事が原因している。こうした状況下、都市近郊の耕作放棄地の再生のためには、自給農業の農地利用以外にないと考えてあしがら農の会は25年活動してきた。自給農業であれば、経営というより趣味的な側面も加わることになる。退職者などの農地利用は将来有望になるはずである。楽しみながら農地利用が出来ることになれば、耕作放棄地は減少する。特に、自給農業では有機農業がおこなわれる可能性も高い。自分の食べる野菜にはそれほど農薬をかけないという農家の現実。その為にも有機農業技術の確立と普及こそ、今の都市近郊の農地利用には不可欠なものである。

有機農業については農業試験場や国の機関などでも、試験農地を組んで検証するという事は出来ないでいる。それは有機農業というものが、気候や土壌に応じて変化の多い、熟練を要する手法の占める割合が高いからではなかろうか。農の会のように多数の人間が、多様な田んぼで、様々な実証実験を行う事が効果的であった。そしてとくに緑肥の実験を行う事で、一定の成果が出ると考えて始めた。有機の里づくり協議会で活動した成果である。補助金が貰えたという事もある。自分たちがやっていることが国によっても評価され、期待されているという励みが大きかった。ところが、農水省は今年度から有機農業も、6次産業化とか、大型農業に特化することで、生産量を上げるという方針に変わったようだ。これが私にはよくわからない発想転換である。有機農業こそ、中山間地の失われつつある農業の方向性ではないか。大型農業を否定するわけではないが、小さい農業を否定してしまう事は、地方再生という大きなものを失う事になる。

有機の里づくり協議会がこれから取り組むべきものは、有機農業技術の確立と普及である。4団体それぞれが確立した技術を新規就農者や自給農業者にいかに普及してゆくかが重要な協議会の目的になる。その意味で、諏訪の原で行っている有機農業塾は、協議会において取り組無価値のあるものだと考えている。有機農業塾で、新規就農者の技術的向上をはかる。実際に今年は4名の新規就農者がこの事業に加わり、目覚ましい技術の向上があった。ますます、有機の里づくり協議会の役割は大きいと考えている。

 

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