田んぼの抑草技術
島の畑 10号 福岡の志賀島と言ったと思う。蒙古襲来の地である。独特の雰囲気のある場所だった。
田んぼは除草剤を使わないでも草を抑えることができる。その基本はトロトロ層の形成にあると考えている。トロトロ層の形成は腐植質の増加と、観察力と水管理である。稲の生育にもトロトロ層を作ることが大切である。トロトロ層は稲の根に良いものである上に、草を抑えるものだ。トロトロ層というものは、物理的にもできるものである。又田んぼの生きものたちが作るものでもある。そもそもトロトロ層が作りやすい土壌というものもあるが、継続的に努力して行けば、ただの山土の造成で新規に作った田んぼでも可能である。それでもトロトロ層が有効に作用してくるには、5年はかかると見なければならない。5年は近代農業には長い。投資が10年も20年も眠っているものなのだから田んぼというものは、祖先から受け継ぎ、次の世代に残してゆくものなのだ。田んぼは経済というより、人間の暮らしかと言わざる得ないことになる。
自然農法でやられていた、大井町のお年寄りが、この土だけはどなたかに受け継いでもらいたいと言われていたことを思い出す。しかも、この土というものは手を抜けば、忽ち衰えてゆくものでもある。増して、除草剤や農薬や化学肥料を使えば、すぐに消耗してしまう。トロトロ層を作り出す基本は腐植を増やすことだ。腐植質を増やすためには、堆肥を入れることが一番である。山の落ち葉堆肥を入れられれば最善である。次善の策としては緑肥作物を作ること。そして、稲藁を田んぼに戻すことである。田んぼに戻すというのは、堆肥化して戻すのでなければならない。腐植してゆく有機物が腐敗方向でなく、発酵方向で微生物に分解されてゆくことだ。稲藁をそのまま田んぼに戻すのでは、土にとっては負担が大きすぎる。良い発酵土壌になるためには、微生物を増加させながら、腐植質を田んぼに入れてゆくことだ。緑肥作物も田んぼの土を良くするが、出来れば枯れてから漉きこんでゆくことだ。生で漉きこむとメタン発酵する。
トロトロ層は微生物が作り出すのだから、春先にその餌を播いてやることだ。田植えが終わり次第、米糠なり、ソバカスなりを播いてやる。播くと言っても、丁寧に田んぼ全体に同じ厚さで播かれるように工夫が必要となる。その点ソバカスは水に浮遊するので、上手く播けば、1週間水面を覆うことができる。そして沈澱して行く。土の状態におおじて、2回ないし3回繰り返せば、トロトロ層もできるし、抑草効果も高い。日光を遮る効果と、トロトロ層効果の2重効果である。微生物の増加に重要なことは、水温の上昇である。30度になれば、ミジンコが大量に湧いてくる。ミジンコが湧けばそれを餌とする様々な田んぼの生き物が現われる。そうしてトロトロ層の形成が進む。漉きこまれた藁や、緑肥が徐々に溶けてゆく。この為には水温が高くなることは不可欠である。水を温めるためには、様々な工夫が必要である。特に棚田の様な、水漏れのおいい場所では、田んぼの準備を丁寧に行い、継続して水漏れを塞いで行くことが重要になる。
田植え後1週間したら、コロガシを始める。コロガシは発芽した雑草を巻き込み浮き上がらせる効果があるが、それ以上に土壌を攪拌し、良い発酵を進める効果が期待できる。縦横、縦横と4回田んぼでコロガシをする。こうすれば、雑草はほぼ押さえられるし。良い土壌が作られ、美味しいお米が出来る。もう一つ重要なことはヒエ対策である。トロトロ層はコナギ対策であるが、ヒエは深水である。8センチ以上に水を張りつづければ、ヒエは発芽しない。当然浅いところもあるから、1反で2,3本は出てくる。それを完全に取り除いてゆけば、ヒエは出ない田んぼになる。最後の抑草技術は、穂が出て田んぼにもう一度はいれるようになったなら、残されたコナギやヒエが種を落とさないように、田んぼから持ち出すことである。田んぼの土に埋め込んでもよいが、再生しないようにしっかり埋め込まなければだめだ。