政府の憲法違反
最高裁判所は裁判官全員一致で、「婚外子」の遺産相続分について、「嫡出子」の半分とした民法900条4号ただし書きは、法の下の平等を保障した憲法14条1項に違反して違憲・無効とする。という初の判断を示した。家庭のあり方に対する時代の変化に対応した予想された判決である。立法府には法律を改正する義務が生じている。それは憲法に基づくもので、3権分立で、国会で司法判断を批判的に議論するような性格のことではない。驚いたことに自民党政権では、この法律を変えると、日本の伝統的家族制度が崩壊して行くとして、法の改正をためらっている。昔の家庭の妾の居る金持ちの方が伝統的とでもいうのだろうか。憲法を変えるべき所であるにもかかわらず、変えられないからこういうことになるというのが、自民党の本音の考えのようだ。しかし、憲法がある以上それを立法府が守るのは義務である。おごれる自民党はついに憲法を変えないまま、憲法を尊重しない態度を取り始めている。これも解釈で済まそうということか。
立法府の裁量の範囲は確かに存在する。それは最高裁の判決にも述べられているところだ。しかし、この問題は、家族制度の変化、世界の法改正の流れ、慣習の変化に伴うものである。以下判決文より。「いわゆる晩婚化、非婚化、少子化が進み、これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに、離婚件数、特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしている。これらのことから、婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴い、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。」しかし、自民党では法改正を阻止するため、西川京子文部科学副大臣や木原稔防衛政務官ら約二十人が会合を持ち、民法改正に関し「家族制度が壊れる」「正妻の子と愛人の子を同じ扱いにしていいのか」などとの異論を出した。自民党の文教族の保守化は深刻である。
一体、日本の伝統的家族制度というものは、どんなものなのだろうか。そしてこの日本の家族制度の伝統は守られ、尊重されるようなものなのであろうか。女性の社会進出が言われている。こちらは明日にでも家族制度に影響する問題である。女性の社会進出が進むためには、日本の家族制度の伝統をぶち壊してゆく覚悟が必要である。自民党総裁の安倍氏は女性の社会参加の推進を国連で表明した。女性の社会参加は伝統的家庭制度を壊すから、止してくれという議論が自民党内であったとも聞いていない。とすると、どうも伝統的家庭制度は屁理屈のように感じられる。愛人の子供を同じに扱うのはけしからんという、床屋談義の方ではないか。そもそもこの問題は相続の平等が発端である。婚外子が不平等であって当然かどうかである。夫に先立たれた女性のもとに「ご主人の子供だから、財産を平等に分割してくれ」という愛人の子供が現れたとして、それを認めることができるのか。そんなのおかしいだろうという、感情論が背景のようだ。これは子どもの人権の観点から、無視すべきものだ。
伝統的家庭制度の論点でいえば、婚姻を政府に届け出る制度が崩壊しては、社会の成立に混乱が生じて困るということではないか。それなら夫婦別姓の問題の方が、課題としては深刻である。法務省の調査では、選択的夫婦別氏制度を導入してもかまわないと答えた者は全体の35.5%であるのに対し,現行の夫婦同氏制度を改める必要はないと答えた者は全体の36.4%とのこと。女性の社会進出を進めるなら、こういうところから変えてゆくことだ。今回の当然の最高裁判決に対して、世間でもかなりの数の異論が出ている。その異論は日本人の、劣化の現れのように私には感じられる。弱者いじめの気分が背景にある。愛人の子供を、つまり弱い者をいじめたいという気分だ。正当な家庭生活が侮辱されたようなことになると思っている。もう一度家庭とは何かを考え直す必要がある。家族は何を大切にすべきなのか。こんなところに伝統を持ち出す保守性は、さすがに女性差別最悪国の驚くべき古さだ。