浅漬け名人のまちがえ

   

 消費者庁によると、アクセル社は「浅漬け名人 菜漬器」と称する容器について、2007年2月から今年3月、テレビショッピングやホームページなどで「鉱石が放出する遠赤外線の効果で、ほうろう容器に比べ、乳酸菌を1時間に6倍以上増殖させる」とうたっていた。「遠赤外線で発酵が進み、1時間で漬物ができる」と漬物容器を宣伝したのは効果の根拠がなく、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして再発防止などを求める措置命令を出した。東京新聞

ぬか漬けを繰り返し失敗していたので、この陶器製の容器には興味を持って調べたことがある。早く美味しい漬物が出来るとは思えなかったので買わなかった。その頃塩麹漬をやるようになり、購入することはなかったともいえる。樽で仕込む味噌と、陶器の甕で仕込む味噌では様子が少し違う。樽は水分の調整してくれる。そのために、3年くらいの長期保存をしてもよりおいしくなる。これが陶器製の甕だと、上部に水が上がることがある。水が上がったから駄目だということはないが、長期保存をするには上部を捨てるようなことになる。繰り返している間に、木樽で仕込むようになった。漬物でもぬか漬けの場合、甕が良いか、木樽が良いかは微妙である。たぶん樽の方がいいはずである。子供の頃の向昌院では木樽であった。東京の家では甕で漬けていた。向昌院では味噌部屋という半地下の部屋があり、土間であった。小さな窓しかないが風通しは良く、薄暗い部屋だが夏でも涼しかった。お寺での集まりが結構あって、月に一度くらいは大勢が集まり、食事を作っていた。その時に味噌蔵にある様々なものが利用された。だからお寺の食料というより、お檀家の人たちの食料保存という感じもあった。もちろん味噌も醤油も大きな樽で仕込まれていた。

東京の家では、樽を置く場所がなかった。水がしみ出ると困るような家の状態だった。そこで甕で糠漬けをやるようになったのだろう。結構大きな甕で毎日大量の野菜を漬けていた。10人以上で暮らしていたのだが、漬物だけはいつでも用意されていた。子供の私はこういうことには当時から興味があり、よくぬか床の管理をやらしてもらった。糠みそ臭くなるなど言われたが、全く気にならなかった。すぐ水が湧いてぬか床の調子が悪くなる。そこで小さな竹ざるを埋め込んで、水をすくいとって捨てていた。母がやはり甕より、木樽の方が上手くゆくと言っていた記憶がある。浅漬け名人のコメントが結構面白い。短時間で上手くゆくという人が多い。浅漬けと、糠漬けの違いなのだろう。この浅漬けと命名しているところがみそだろう。浅漬けならどんな容器でも簡単にできるはずだ。これほど高価な容器がなくても出来る。プラステックで出来た、ねじで上から圧力をかける物でも、十分にできる。要するに塩をかけて、重しで押せば、美味しい浅漬けになる。そこに遠赤外線が影響するかどうか。たぶんしないと考えた方がいい。

浅漬けは乳酸菌が云々というほどのものではない。塩が野菜の水分を引き出すことが中心だろう。特殊な陶土を使った陶器のようなイメージがあるが、昔から塩の強い味噌を入れる甕は、よほど土が強くないと塩がしみ出て割れてしまう。これには嶋田窯の半磁器土良いと書かれている。1300度でも焼けるような磁器のような土が焼き締まり良いらしい。沖縄で買った甕も、ベトナムの磁器に近い土のようだ。それでも割れていないのに染み出すことがあるらしい。だから、水漏れ試験をしてからの販売になっている。嶋田窯の味噌甕は民芸風でなかなか良い。これで安いなら買いたくなるが、いまどき登り窯なら、高くなって当たり前だ。浅漬けは浅漬けで美味しい。浅漬けはむしろ野菜の良さが影響する。みずみずしく、味の深い野菜を浅漬けにする。家で採れた、茗荷やシソを加える。塩の味も重要で、ただのナトリウムでは物足りない。ただし、乳酸発酵を味わうのなら、時間を待つということも味わうことだ。

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