ペシャワールの会への希望

   



 アフガニスタンから欧米の軍事支援が撤退した途端に、アフガニスタンのアメリカ支援政府は、忽ちに崩壊した。崩壊後タリバン政権にまた戻った。このアフガニスタンで起きたことを、日本も深く理解し反省しなければならない問題である。

 アフガニスタンへのアメリカを中心とした派兵によって、2500人のアメリカ兵が死亡した。アメリカは1兆ドルもの出費をしたという。日本は軍事支援をしない代わりにアメリカに次いで、多額の援助を行った。こうした欧米のアフガン政府への支援は実に悪い結果になった。

 それはアフガン政府がアフガンの国民から支持されなかったためである。こうした失敗は、中国でも、ベトナムでも、アフガニスタンでも、繰返し行われ失敗してきたことだ。イスラム過激派を排除して、あるいは共産主義革命軍の拡張を防ごうとして、国民から信頼されない政府を、アメリカが支援する形の無残な敗北。

 アメリカは紛争の解決のために、アメリカ人の命と血税を費やして、軍事侵攻をする。そこにはアメリカの正義がある。自由と民主主義のための戦いである。反面アメリカにはそうした紛争によって、軍需産業によって利益を生み出す側面もある。

 日本は、これまで、人道支援や文化復興支援、農業支援などの分野でアフガニスタンの大多数である農民に、寄り添い関与を継続してきた、特に、農業分野では、人生をアフガニスタンの農業発展に捧げた「ペシャワール会」の中村哲医師の存在がある。

 アフガニスタン政府の腐敗との関わりは少なく、アメリカのように支援をしてきたにもかかわらず、アフガニスタン国民から支持されなかったこととは違う。なぜアメリカがアフガニスタンで失敗したのかといえば、アフガン政府が汚職まみれだったからである。

 膨大な費用が費やされて、アフガン支援が行われている間に、私利私欲に走る政府になっていた。そしてその腐敗したお金がアメリカ側に貫流される部分も多かったと言われている。ただの軍事援助という物が国作りには良くない結果をもたらすということだろう。

 日本はミャンマーとは長い支援の歴史がある。軍事政権になり、非民主的な事態が起きている。民主的に選ばれた政権が武力的に潰された。そして多くの政治家が殺害されてしまった。今もってアウンサンスーチーさんは逮捕されたままで、処刑されるのではないかといわれている。

 こんな非道なことが、当たり前に国際社会では続いている。しかし現実にはミャンマーでも大半の国民は苦しい中、普通に暮らしている。一体民主主義政権と武力による専制政権は、未来社会はどちら側にあるのかと思える状況が続いている。

 ペシャワールの会から年何度か通信が送られてくる。それを読んでいると、タリバン政権と対立するのではなく、活動は続けられている。結局の所、中村哲氏がどういう勢力に殺害されたのかも分からない。アフガニスタンのどこに正義があるのか、どんな方角に進むのかも不明。

 それでも、ペシャワールの会の医療活動。運河建設。農場建設は続けられている。今では現地の農民であるアフガニスタン人自身が、ペシャワールの会の元に集まり、活動を継続している。たぶん、タリバン政権の問題点は様々にあるのであろうが、命の水の運河を作り続けている。

 その活動も、気候変動によりアフガニスタンの山岳部にある氷河が溶け出し、水資源そのものに危うい側面が生じているようだ。人間のこうした善意の努力は報われるとは限らない。それでも諦めること無く日々の作業は続けられている。何とか成功することを願うしかない。

 世界は紛争や貧困からだんだんに抜け出せるのだと考えてきた20世紀だった。ベトナム、イラク、ミャンマー、アフガニスタンでの失敗が、次の解決に向かう糧になるのかと思いきや、どちらかといえば悪い方角に世界は向かっているとしか思えない。

 その象徴がロシアという軍事大国による、友好国ウクライナへの軍事侵攻である。そして1年が経過しても一向に戦争が終わらない。この耐えがたい世界の現実をどう受け止めれば良いのだろうか。もう受け止めきれないような絶望感に襲われる。

 それでも諦めないペシャワールの会の活動は、何に支えられているのだろうかと感じている。宗教的信念なのだろうか。ペシャワールの会ではイスラム寺院の建設なども行っている。キリスト教がペシャワールの会の活動の背景にはあるようだが、イスラム寺院を作るような現地での寄り添い方に、活動の精神があるのだろう。

 タリバン政権のほうが、まだアメリカ支援の前政権よりは国民は受け入れているらしい。しかし、女性に対する差別はタリバン政権ではひどいようだ。ペシャワールの会の通信でも女性が出てくることはまず無い。日本人職員も、アフガニスタンの関係者も男性ばかりである。

 欧米は女性差別の点から、繰返しタリバン政権を非難している。それは間違ってはいないことだが、女性差別問題を強調していても、アフガニスタンにある様々なもっと深刻な、例えば水問題は解決はできない。未来に希望を見いだすためには、違う角度からアフガンの現実を見なければならないのだろう。

 タリバン政権の一番の問題は相変わらずアルカイダとの関係を持っている点だ。中村氏の殺害に見られるような、暴力が日常のとなりにある。去年、過去30年で最悪とも言われる干ばつに見舞われた。アフガニスタンから国際支援がなくなり、アフガニスタンと言う国自体が崩壊の瀬戸際にある。

 悪いこと(アメリカの介入)ともっと悪い事(タリバン政権)を比較することは出来ない。今そこで命が失われようとしている現実がある。それをすくおうというのがペシャワールの会の活動なのだろう。世界の人道支援が断ち切られた状況である。飢餓が起き、難民化することが目の前に迫っている。

  世界にはこうした絶望的状況がいくつも、いくつもあるのだろう。その一つ一つを忘れるわけにはいかないが、やれることは限られている。今目の前の自分の暮らしを確実にこなす以外にない。そしていくらかでも余剰があれば、ペシャワールの会にお渡しすることだ。

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