トランプこそ農業の壁だ。
アメリカがTPPを止めた理由は、もっと自国だけに有利な貿易条件を作りたいという事だろう。世界最大の経済大国が徹底して自己利益に動いた場合、どういう結果になるか。アメリカ一国が栄え、世界経済は混乱し衰退に向かうであろう。強いものが弱いものに配慮をしない資本主義経済は、戦争への道になる。アメリカという国がどのように出来上がってきたのか。アメリカの農業は、低価格の燃料費に支えられている。低価格の外国人労働者が働いている。広大な土地と恵まれた気候の広大な国である。世界一農業に有利な条件下の国がアメリカである。農業は自然条件に大きく左右される。アメリカがアラスカだけであれば農業をして、世界と競争しろという訳には行かない。食糧は人が生きるための最も基本的なものだ。食糧自給は国家の基本にしなければならない。自動車と食糧を同じ尺度で考えてはならない。
日本政府は農産物を輸出産業にしようと口ではいうが、農業をつぶすための理由に過ぎない。日本が農産物の国際競争力を高めると主張するならば、アメリカの土俵に乗らざる得ないことになる。農産物からすべての関税を取り払い、一切の農業補助を撤廃する道に入り込む。各国の農業の背景にある、歴史と文化を消滅させることに必ずなる。東洋3000年の循環農業の伝統を消すことになる。そして、IT農業などと必ず失敗する道に入り込むことになる。IT農業は電力や燃料を莫大に必要とする農業である。日本が有利な訳がない。人間が滅びに向う農業である。目新しさに農業の本質を見失ってはならない。あくまで農業を考えるときは主食を考えればいい。稲作農業である。稲作が日本を作り上げてきた農業である。お米をどうするかを考えることが日本の水土を守ることである。日本のお米は価格的にアメリカと比較して確かに高い。価格競争だけで考えれば、日本の稲作農家は無くなる。この現実がアメリカの今の主張である。
アベ政権も、アベノミクスのためにはその方が有利であると考えている。国民も徐々にそう考える人が増えている。稲作農業者は老齢化し、減少しているのだ。たぶん、沖縄本島のように日本から稲作は無くなると考えておいた方が良い。残念だと思うが田んぼが無くなり、日本人であることも忘れるのであろう。稲作を止めるという事は、私には日本語を止めて、国語を英語にするのと同じように思える。お米を食べる人がさらに減り、パン食の国になるのだろう。輸入小麦の方が安いとかいう事になるはずだ。日本列島に暮らす人が、新日本人になる日が私が生きている間に来る。それは日本から伝統農業が失われた日だ。現実に農業者の平均年齢は私とほぼ同じ67歳である。70歳を超えている地域も多いい。残念ながらこの流れは、変えられないだろう。農業は伝統産業にすでになっている。
わずかに生き残る日本の稲作はアメリカ型の大型機械農業を取り入れられる広大な平地のあるところだ。北海道や一部の東北などに限られている。それは残るだろうが、日本の文化を創り出した、伝統的農業とはかけ離れたものになることだろう。そこに暮らす人は新日本人なのである。しかし、新日本人が世界で競争し、それなりに勝ち抜いてゆく為には、根底に文化というものがなければ無理だ。その意味でも韓国の失敗から学ぶべきだ。競争だけを精鋭化しても、人間の根底にある文化を失えば、新しいものを生み出す創造的文化力が衰退する。絵画の分野で見ればすぐにわかることだ。世界の絵画格差というものを見ると、それが分かる。時代によって、地域によって、良い絵がある地域とない地域がある。日本にもかつては高い時代があった。残念ながら、現状の日本絵画は衰退期である。伝統文化を失いつつあるからだ。それは、実は工業製品でも競争に敗れてゆく前兆である。トランプの登場は歴史の流れなのかもしれない。