運動靴の時代

身につける物に特に興味は無い。服でも帽子でも実用性があればそれで十分である。土台が見苦しい人間だから、汚い服装でもそれ程の違和感はない。だから、身につける物全般に実用以外の興味も無い。しかし、実は一つだけ興味があるものがあるのだ。それが靴である。
何故靴に興味があるかと言えば、靴は身につける物の中で一番実用性が高い物なのだ。まず一番は長靴である。ほぼ毎日長靴で暮らしている。何かと田んぼや溜め池や水牛池に入らなければならないことが起こるので、その用意と言うことで、農場に居ればほぼ長靴である。
長靴も色々あって、見た目同じようでも実用性に違いがある。アトリエカーの中に長靴が3足載せてある。田んぼのぬかるみを歩いて、脱げてしまわないような靴が良い長靴だ。しかし、それでいて普段脱ぐときには簡単に脱げなければならない。だから田んぼ靴では日ごろの実用にはならない。
長靴は今のところミツウマのものがいい。ミツウマの物にも色々ある。現在ミツウマの長靴を4種持っている。使い分けているのだ。そんなことを書こうと思ったわけではなかった。つい長靴に実用からのこだわりがあるので話にづれてしまった。
東京に行き電車に乗った。前回はトレインテレビにびっくりしたのだが、今回はほとんどの人が運動靴であるのに驚いたのだ。男性なら8割り方運動靴、女性でも6割ぐらいは運動靴ではないかと思う。それは年齢層に関係が無かった。運動靴という言葉にしたのは、履いている物に対する適当な名称が思いつかなかったためだ。
良い時代が来たと思える。「運動靴の時代」見た目より実質の時代になったと言うことでは無いか。歩きやすく、転びにくい靴が選ばれている。そして社会も運動靴を一定正式な履き物として、受け入れているのだろう。ハイヒールなどそもそも、女性を蔑視したようなおかしな履き物ではないか。飛行機に乗ると、脱出時は脱げとされるような靴を何故履くのか。
スポーツシューズというものもある。ランニングシューズというものもある。バスケシューズも多かった。最近多いのはウオーキングシューズである。この辺りになると、運動靴と言って良いのかどうかは微妙になるが、ともかくいわゆるビジネスシューズという物を吐いている人は電車では極めて少ない。
今時はビジネスシューズを履くような人は、車で送り迎えがあるような人限定では無いだろうか。最近はセールスマンであれば、ウオーキングシューズで大丈夫と言うことでは無いだろうか。政治家は身なりを気にする人種だが、ウオーキングシューズを履く人は少ないのではないか。
ここで言うビジネスシューズのイメージは、私の少ない知識ではリーガルとか、マドラスのブランドが浮んでくるのだが、それも違うのかも知れない。ピカピカに黒光りしている靴である。茶色も無いわけではないが、ほぼ黒光りテカテカ、コチコチである。これがほぼ無くなっている。
中高生の時代は、革の短靴であった。今の時代で近いと言えばビジネスシューズである。いや警官とか、自衛官、警備員、の活動靴に近いのか。あんな靴を履いている中高生は今は居ないだろう。今は靴が決められているという学校の方が少ないのかも知れない。
昔は靴底は革で出来ていた。踵の何層にも成っている革底が減ってくると、適切なそうまで剥がして、平らに削り張り替えて貰えたのだ。町には靴底の張り替え屋さんという物は沢山あった。誰でも簡単に始められるから、玄関先ぐらいの狭い場所がお店になっていた。
歩き方が悪いのか、たぶんがに股なのだろう。靴底の外側ばかりがすり減った。そこで年に何度も張り替えて貰ったような気がする。持って行けば待っている間に張り替えてくれた。その張り替えの作業を見ているのが面白くて、楽しみだった。
所が今は靴底はゴムで出来ている。ゴムは張り替えるのに、あまり良い素材ではないようだ。だから、今は靴底まで張り替える人は少ないのではないだろうか。町の靴直し屋さんはまず張り替えはしてくれない。メーカーに送って直して貰うのでは、買い換えた方が安いようなことになる。昔は下駄の歯だって、付け替えていたのに。
古くなって馴染んで良い雰囲気の靴になった頃に、靴底が張り替えて貰えないというのでは、長く味わうことで良くなる靴の皮の感触など、今の時代無意味になる。小田原では居ているクラークスの運動靴など、もう10年も使って良い味になっている。
短靴という物は自衛官などは今でも履いている。靴底が革で出来ているのかどうかは知らないが、多分ゴム底だろう。見た目では短靴に近いのが安全靴である。爪先の中に、潰されない鋼板が入れてある。今では、硬質のプラステックなのだろう。潰れる重さのJIS規格があって作業によって強度が違う。
私は緑安全靴を履いている。これが想像以上には来やすい靴に変っているのには驚く。水牛が足を踏みそうな作業では使う。水牛は承知で足を踏むことがある。気付かないふりをしてわざと踏むと思える。水牛の足には微妙な感触があり、踏む寸前にかわすことが可能なのだ。ワカバが子供を産んだ後、いかにも踏みそうなのに、さっとかわすので気付いた。
ここからやっと書きたかった話だ。靴を沢山持っている。イメルダスカルノ夫人ほどではないが、20足ぐらいはあると思う。と言っても別段高級靴ではない。と言っても安物の靴でもない。そもそも電車の中では高級靴など見たこともない。あの気取ったドレスシューズは特に耐えがたい。あんな物は誰がどこで履くのだろうか。
ブランド物の高級革靴に興味があるわけではない。私が興味がある靴は長年Clarks のウオーキングシューズだった。Nature Three / ネイチャースリーと書いてある。長年クラークスのこの靴ばかり履いてきた。最もオーソドックスの靴だと思っていた。今も5,6足はあるので、多分歩ける間はもう買わないでもこれで十分だろう。
何故クラークスをはいてきたかと言えば、足がそれが良いと言うからだ。足に馴染む。だめな足なので、靴擦れが出来るのだ。何故英国の靴が日本人の足に合うのかは分らないが、私にはそれが良かった。もちろん見た目も好きだったのだ。革が馴染んで行く様子が良いのだ。革は古くなればなるほど美しくなる。
これは子供の頃野球のグローブを買って貰い。嬉しくて寝床の中まで持ち込んでいた。毎日グローブ油で磨いて知ったことだ。革は使い込めば使い込むほど、飴色になって馴染んで美しくなる。グローブで言えば手に馴染む。革靴も同じで、足に馴染んでくる。履き皺が出来てくる。これが出来たら使わないという人も居るのだろうが、私はそれが好きなのだ。
そして最近はファインコンフォートの靴を履いている。こちらはドイツ製である。この靴は土踏まずが高くて、履き慣れると姿勢が良くなる。いかにも健康靴なのだ。歳をとり姿勢が悪くなりがちだから、できるだけ、この靴を履くようにしている。靴のデザインも悪くない。
それからBIRKENSTOCKビルケンストックの靴もいくつかある。これもドイツの靴だ。親指の長い変ったホルムだが、確かに足の指が楽な靴だ。ドイツの靴はしっかり作られていて、それでいて履き心地も悪くないのだ。この靴も革の質が良く、使い込んだ方が美しくなる靴だ。
日々使っている物は大抵の物は日本製品なのだが、どうも靴だけは英国か、ドイツが良い。革製品は日本ではまだ良いものが作れないのかもしれない。これが伝統の革靴の価値なのかも知れない。アシックスのプラダという革のウオーキングシューズがあり、試しに履いてみた。
もう2年ほど持っているのだが、あまり使わないせいか、だんだん古びてきただけで、革が馴染んできたとは言えない。アシックスのスポーツシューズは良いと思うが、どうも革靴に関しては、まだ革の質に差があるような気がしている。もちろんこれはヨレヨレが好きな私の個人的な観点に過ぎないが。