長江の渇水と中国の食糧自給
長江は2022年にかつてない渇水になった。それがまた2024年にも流域の雨が半分ぐらいの雨量になり、渇水が始まっている。世界で異常気象が続き、サハラ砂漠で洪水が起きたり、アマゾン川が干上がってしまったり、驚くような事が世界中で起きている。
ただ長江の場合はその水が支えている人口が何億人も居る。その流域の食料を食べている人達が何億人も居る。渇水の影響はただ事では済まないことになる。ただ、中国はさすがに大きな国なので、例年の半分の雨しか降らないでも今のところ困るところまで行ってはいないようだ。
世界で同時多発的に厳しい干ばつ被害が起きている。欧州委員会は8月23日「欧州全土の6割以上が干ばつ被害を受けている。過去500年間で最悪レベルだ」との見解を示した。ライン川の水位が劇的に低下し、域内物流への影響が懸念されている。
フランスでも運河の運行が出来なくなったというニュースにナンシー近郊の懐かしい風景が出ていた。あの船はヒッチハイクが出来たのだ。南進の郊外の絵に描いたような風景が、浮んできたがそうだ石炭を当時は運んでいたが、今は何を運ぶのだろうか。
米国でも「ホット・アンド・ドライ(高温乾燥)」と呼ばれる干ばつ型の異常気象が報告されているが、さらに大変なことになっているのは中国である。中国ではいま、観測史上最悪の熱波に見舞われてきた。中国最大の淡水湖、$9131陽湖の代表的な水文観測所である「星子観測所」での観測水位が9日午後7時の時点で7.99メートルまで低下した。
$9131陽湖では、水位が8メートルを切ると極端な渇水位とされる。2022年の干ばつでも8mを切ることが有り、水力発電なのどに大きな影響があった。 しかし8mの水位を切る程度では生活水に問題があると言うことはない。さすがに大きな国だ。
ただし、農業被害の大きさはかなりのものになるのではないか懸念される。中国も食糧輸入国である。2023年に6億9,541万トンと前年比1.3%増となり、史上最高を記録した。作目別の生産量は、トウモロコシが2億8,884万トン、大豆が2,084万トン、米が2億600万トン、小麦が1億3,700万トン。
とされているが、この統計はどうも私の農家としての感覚としては信じがたいところがある。何故この10年間も食料生産量が増加してきているのに、穀物輸入量が毎年10%も増加しているのかである。輸入量はごまかしようのない数字である。国内生産量は正直なものとは言えない。
もちろん日本と同じで、穀物輸入が畜産飼料になるという事は中国でもあるのだろうが、それにしても日本と違い毎年食糧増産が続いているというのだ。農業人口は減少している。どうもこの数字は怪しいと言わざる得ない。中語も日本と同じように食糧自給を国是とはしている。
ただ国是が達成できないときに日本では、深く反省して、今後の職務で頑張りますぐらいで終わりだが、中国では担当は処罰される。左遷される。農村に送られる。どちらも食料が出てくるわけではない。実際には食料に余裕はなくなっていると考えた方が良い。
農村部の貧困格差が著しいことは、習近平政権も認めているところだ。農村人口の減少は続いている。そこに干ばつである。食料さえ不十分な地域があるはずだ。発電量に影響が出て、操業が出来ない工場があるということは分っているのだから、農業への影響が無いわけがない。
3年前にはアメリカからの輸入が大きかったのだ。アメリカが中国には食料輸出をしないとすれば、中国の打撃は深刻なものになるはずだ。特に大豆の生産が中国では少ない。醤油も味噌も、豆腐も納豆もなくなるのだ。まあそんなことはないとは思うが、中国のアキレス腱は食料であろう。
大豆はブラジル産に変った。しかし今年はブラジルも大干ばつである。十分に輸入できるのだろうか。小麦もアメリカ産から、オーストラリアさんに変更れた。このところ、アメリカ依存を減らす方針で大きく転換された。アメリカへの圧力でもあるのだろう。
中国の農業の弱点はあの広い国土で、耕作面積が一軒当たりでは日本より小さいのだ。そのために大規模化出来ない。近代化できない農業環境の中で、農業従事者は減少して行く。そして、これもまた信じがたい事なのだが、中国の農業生産効率は悪く、安い労賃にもかかわらず農産物が輸入するものよりも高くて生産できないのだ。
農村部の前近代化の状態が、これからの中国の最大の課題になるだろう。私は中国農村部はかなり見て歩いた。農家の方と直接色々の話もさせていただいた。素晴らしい養鶏農家も見せていただいた。やはり若者が都会に出て行くと言うことが課題なのだろう。若い人が居ないから経営の改革の限界がある。
中国政府が穀物は増産されていて、食糧自給も間近であると主張すればするほど、中国の食糧危機は近づいているような気がして成らない。食糧が不足するようなことになれば、中国の高度成長も足下から揺らぐことになる。当然、自給率の低い日本に影響が無いわけがない。