石垣島での自給の夢
こんな感じになると、あかうきくさは増え始める。まだ増殖法は完全ではないが、今年はどこの田んぼでも広がり始めている。よくよく観察して、自給農技術として、安定してあかうきくさを増殖する方法を完成して行きたい。
石垣島に来て、5年である。来る前には来たら絵だけ描くつもりだったのに、今の夢は石垣島に、10くらいの市民の行う自給の農業グループが出来ることを考えている。それぞれが自立して田んぼや畑をやっている。それが緩やかな連携で繋がっている10のグループ。そんな夢だ。
のぼたん農園を初めてみて、自給農に関心を持つ人がそれなりに居ると言うことは分かった。しかし、実際に行える人が少ないことも分かった。人様々な生活の中に暮らしている。石垣島の生活は小田原よりも厳しいと思われる。生活費は小田原と同じで、給与は日本一安い。
自給農を暮らしの中に取り入れると言うことは、普通に暮らしている分には、余分と言えば余分のことなのだ。よほどの思いがなければ、続かない。生活が厳しい中で、自給農をやってみようと言うことは、よほどの思いがなければ続かないと言うことになる。
農業って自然に触れられるので、なんかおもしろいかも知れない。そのくらい軽い気持ちの人が、農作業を体験してみて、生き方が大きく変ることがある。その入り口にのぼたん農園が成れば良いと思う。そのためにも、10くらいの様々な自給農グループがあり、近い場所に参加しながら、緩やかな連携ができるのがすばらしい。
自給農が楽しく出来るか挫折するかは農業が技術化されているかどうかである。技術化とは普通に誰にでも再現できる方法が確立できると言うことだ。そして様々に起こってくる問題を、解決できる方法が確立されていることだ。自然農の分野は、おかしな思い込みに支配されている。故人の独特の技であって、技術までは進んでいないことが多い。
小田原での35年間の自給農の結論は、「一人の自給は100坪の土地と1時間の労働で可能だ。」と言うものだった。その技術にたどり着くために35年かかったと言うことだろう。もちろん一人で出来たわけでは無い。大勢の明日柄農の会の仲間が居たから、たどり着くことが出来た。
そして、石垣島に場所を変えてまた、自給農の技術の探求を始めた。誰がやっても同じことが再現できる自給技術である。自然農の福岡さんがやればとか、川口さんがやればとか、リンゴの木村さんがやればとか言うものではなく、どこの誰でも再現可能な一般化された自給農技術の確立である。
驚いたことは小田原と石垣島では農業技術がまるで違っていたのだ。田植えをして、ネットを張らなければ、風が強くて苗が枯れてしまう。ネットを張ると言うことに気付くだけで、2年もかかった。もう違うことばかりで、毎日が発見の連続である。まだ三年目では技術といえるところまでは進んでいない。
今ここぞと可能性を感じて探求しているのは、「ひこばえ農法」と「あかうきくさ農法」である。これを安定した技術にするためには、分からないことが沢山ある。600年も昔から熱帯地方では行われてきたものだから、石垣島で再現できないはずはないと考え、日々観察と研究を重ねている。
技術はそれぞれが自分にあったものを見付けるほか無いのだが、農業技術という基本の枠組みはある。その根底には、「一人の自給は100坪の土地と、1時間の労働で達成できる。」と言うものにしなければならないと考えている。しかも、74歳の体力でも何とか成る楽な農法である。
何故「100坪1時間」の原則にこだわるかと言えば、そういう物でなければ仕事のある人に、継続できないと考えているからだ。楽しい農業、健康農業の範囲で食糧自給を達成できなければ、継続が出来ない。それでも続けられない人の方が多いのが現実である。人間はそんなものなのだ。
石垣島の自給農は小田原より難しい面と、ずっと楽な面がある。難しいのは土壌が良くないと言うことだ。小田原の土壌はそのまま耕作してもほどほど出来る土壌だ。昔は耕作地だったところであれば、まず復田してお米は普通に最初から出来る。むしろ、農家から借りた田んぼより良く出来ることの方が多かった。
耕作放棄されている間に土壌が良くなっているのだ。草が積み重なり、良い土壌になっている。所が石垣島の土壌は、放棄されている間に作物が出来ないものに変っている。強い陽射しが続くために、放棄された農地では、土壌微生物が死に絶えてしまい、土壌を豊かにしてくれると言うことが無いようだ。
腐植質が強い太陽で消耗されてしまい、失われ消えてしまう。腐植質が不足しているから、肥料が効かない感じがする。肥料の効果が無いだけでなく、入れた堆肥がおかしな結果を招くこともあるようだ。田んぼならまだ水が緩和してくれて良いのだが、畑作りはかなり大変なことになる。
畑では作物が十分に出来た経験はまだ無い。ジャガイモは小田原の5分の1くらいの収穫しかない。大豆であれば、全く採れない。サツマイモは病気が出る。まだましなのは、トマトと小麦くらいかも知れない。何でこれほど作りにくいのか、第一の原因が腐食質の不足だと考えている。
「ひこばえ農法」はいくつかの課題が見えてきた。病気がひこばえに持ち越される。病気気味のひこばえを取り除き、健全な株を分けて田植えをする必要がある。穂が実る時期がばらつくので、これは稲刈り後1ヶ月ぐらいで、刈り戻す必要がある。
収穫を早めにするというのも、必要な技術のようだ。最後の最後まで実らせると、稲が精力を出し切ってしまい、次のひこばえを出す力が落ちてしまうようだ。かなりの頻度で追肥が必要になるが、丁度良い頃合いに追肥を入れて行かなければならない。この時期の見極めが重要。
「あかうきくさ農法」ではあかうきくさの再生は、かなり出来るようになってきた。まだ十分に技術化は出来ていない。どうすれば確実にあかうきくさを出現させることが出来るかは、まだ技術化されたとまでは言えない。今の時点で分かってきたことは、いくつかある。
1,太陽光が強く当たることがあかうきくさを広げる。
2,水が十分あることが必要。多分、湧き水の方が良いらしい。
3,土壌の影響があるらしい。
4,広がっている田んぼから移してやると、無い田んぼで広がるようだ。
こうして自給農技術が確立されてゆき、石垣島に自給農グループがいくつも出来ることが夢である。