2週間の上野暮らし
朝の上野公園
最初に書き加えることにしました。もう日にちもありませんが。水彩人展でわたしに作品評を聞きたい、と思う方は受付に申し出てください。毎日会場のどこかにいますので。
石垣島から出てきて、2週間上野で暮らしている。上野の山で暮らしているわけではない。と言ってもうこの意味はいまは伝わらないだろう。戦後家を失って行くところのない人が、上野公園の山の中で沢山暮らしていた。
上野動物園に行くときには、地下鉄を出てから路上生活者の沢山いる地下道の中を抜けてゆくのが、何となく怖かったものだ。白い服を着た傷痍軍人の募金集めの人も何人も見かけた。今そのころの怖かった気持ちを申し訳なく思っている。
昼間は東京都美術館にいる。一日中絵のことを語り合っているのだから、これは楽しい。絵はいくら見ても飽きることがない。絵は見れば見るほどにいろいろのことが見えてくる。それはいい絵も悪い絵もない。昨日もパンと瓶たちというなかなかしゃれた絵のなかに、日本酒のびんがあるのを発見した。
今回佐瀬さんとはずいぶん絵の話ができた。たくさん話せてよかった。佐瀬さんの描く気持ちがだいぶわかってきた。絵の本当のところなど、人にわかるはずもないと誰もが思っている。それでもわからないなりに、意見をぶつけ合うことは重要だと改めて思った。
大原さんも珍しく自分の絵のことを語ってくれた。なるほどと思うことがいろいろあった。大原さんの絵からずいぶん技術を教えてもらってきたわけなのだが、今回の大原さんの絵からはあまり技術は感じられなかった。それは一歩前進なのか、一歩後退なのか。少し絵が変わり始めているのかもしれない。
それぞれの人のわたしの絵の批評を聞いていると、実は自分の絵のことを語っているんだと感じることがよくある。人の絵で気になる点は実は自分の絵で、気がかりな点なのかもしれない。絵を描く人は自分の絵の問題をいつも抱えている。この点が評論家の批評とは違う。
人の絵の批評をするときには、その人の絵が前進できるかもしれないということだけを話すようにしている。人の絵の欠点を探したところで無意味なことだ。できるだけ技術的なことではなく、絵に向かう気持ちのほうのことを話すようにしている。そこまで話せるのは仲間だからだ。
上野はなかなか面白い。アメ横が特にいい。まるで台湾の夜市に行ったような気になる。台湾に行けない代わりにアメ横をさまよい歩くほかない。2週間の上野暮らしは結構楽しい。毎晩アメ横をぐるぐる回り歩いている。本当は店に入って酒も飲みたいのだが、怖くてそれでができない。情けない。早くコロナよどっかゆけよ。
アメ横は外国人が極端に増えた。一時上野は町全体が、さびれた雰囲気があったが、今は盛り返した。アジアの上昇エネルギーが上野にはある。数年前まではなんとなく、アメ横に外国勢が割り込んできた感があったが、今はむしろアナーキーな無国籍な空気が、いい雰囲気を醸し出している。
しかし、多くの店が客引きをしている。これは台湾の夜市ではないことだ。客引きに労力を割かないでも、店でのパフォーマンスが面白ければ人は寄ってゆく。なぜなのか日本では呼び込みでモノを売ろうという商いになる。実は私もそういう物売りをしてきた。
上野には台湾のお店があってまるで台湾夜市そのままなのだ。ルーローハンが出ている。ルーローハンというのは台湾夜市の定番豚そぼろどんぶりというようなもの。ああ食いたい。と思ったが店に入れないままだ。今日は食べてやるぞ。
台湾の夜市は人を呼び込むために、目立つような若い女性が店番していることが多い。上野の台湾屋台もまるで同じなのだ。しかし、若い女性は苦手なので近寄れない。ルーローハンは食べてみたい。台湾の味がするのだろうか。
アラブ系の店も多い。客引きに脅かされているような気になってしまい、どんな料理を出しているのかもよくわからない。店が路上に張り出して路上のテーブル席で食べている。あれはコロナには安全でいい。ここにすわろうかとおもったのだが、いつの間にか、立錐の余地がないという状態だ。
誰しも考えることは変わらない。楽しそうに盛り上がって飲んでいる。いい雰囲気なのだが、ここにも入れてもらえない。結局、大たこ焼き8個400円に決めて、長い列の後ろについた。20分ぐらいは待っただろうか。なんと、私の前で今日は終わり。終わり、終わり。とニコニコ言われてしまった。
並んであたりに溶け込んでいられたから、少しも腹は立たなかった。並ぶこと自体が楽しいというのもおかしいがそんなものなのだ。結局もう一軒の並んでないたこ焼き屋で10個680円のところで買って食べた。銀だことは違って脂っぽくなくて悪くない味だった。
夜はこうして毎晩アジアのお祭り屋台を楽しんでいる。そして昼間は都美術館で水彩人だ。これでは疲れるどころかどんどん元気が出てくる。朝は都美術館まで行く道すがら、上野公園を散策する。これもいいものだ。遠回りしてあちこち歩いてみるのも悪くない。樹木がたくさんあるので、散歩はなかなかいい。
そして、上野公園の目立たない場所でゆっくりパンとカフェオーレの朝食を食べる。人が足早に通り過ぎてゆく。犬を連れた同じ人たちに毎朝あう。太極拳のような体操をしているグループもある。マラソンランナーも汗を流して走り去る。上野公園を日常の暮らしの延長に使っている人たちがいる。
そういう中でのんびり朝の時間を過ごしている。早朝の上野公園も悪くない。来年もこんな時間が持てるだろうか。できれば来年の上野暮らしを楽しみたいと思う。毎日美術館に来て疲れませんかなど聞かれるが。まったく疲れるどころか、いい暮らしの休憩になっている。展覧会が終われば、翌日から稲刈りの予定である。
考えてみれば上野の2週間は全くぜいたくな暮らしだ。農作業でみんなが忙しい中で、上野に旅行に出て来て、昼間は水彩人があって毎日楽んでいる。夜になって、上野の夜市を楽しく徘徊できる。結構面白い上野暮らしである。
そうだ楽しいことはもう一つあった。毎朝サウナに入れる。サウナのある所に泊まっているから、夜でも朝でもサウナに入れる。サウナに毎日入っている。毎日入っているうちに光アレルギーが治った。汗をどんどかいている内に、汗腺の機能が回復したような感じがする。詰まっていた毒素が汗とともに出てくれたような感じだ。
汗腺の詰まりが取れたというような感じである。最初のうちは汗が皮膚の外に出れないで水ぶくれができた。どうなるかと思ったのだが、繰り返しているうちに治ってしまった。これはよかった。光アレルギーにはサウナがいい。ということでもないが。
まあ石垣よりも光が弱いから、治ったというのもあるかもしれないのだが、サウナ効果と思うことにしている。汗腺が大いに使われて修復されたと決めている。これも上野暮らしの恩恵かもしれない。来年もこの上野暮らしができるように健康で頑張りたいものだ。