香港が中国を変えるかもしれない。

   


香港政府が、4月に、容疑者を中国に引き渡すことを可能にする逃亡犯条例改正案を立法会に提案し、これに抗議する市民が街頭に出たのが6月である。デモに参加する人々の数は増えていき、6月16日には200万人にも達した。民主派は、①条例改正案の撤回に加え、②デモの「暴動」認定の取り消し、③警察の暴力に対する独立調査委員会の設置、④抗議活動で拘束された者の釈放、⑤行政長官選挙の民主化の5項目要求を掲げている。
 その後もデモは続き、遂に9月4日、林鄭月娥行政長官は条例改正案を正式に撤回した。しかし、民主化を求める市民の抗議活動は続いていった。10月5日には、「覆面禁止規則」が施行され、それがまたデモを過激化させるという悪循環になり、11月8日には、現場で負傷した男子大学生が死亡した。その3日後の11日には、警官の発砲で男子学生が重態になり、抗議活動が毎日続くようになり、17日には香港理工大学を学生が占拠して警官隊と攻防を繰り返す事態に発展した。
 香港の選挙で反中国政府の議員が9割近くを占めるという事になった。香港の混乱はますます、深刻化している。アメリカが香港市民を支持する法律を作った。日本政府は中国に接近しようとしている時でもあり発言すらできないでいる。

 香港市民は、中国政府の主権を奪うやり方に対して、強い抵抗をしている。中国政府はこれ以上武力弾圧が出来なくなり行き詰まっている。香港は中国経済の大きな窓口である。閉じることは中国経済に打撃でもある。

 香港の人々の勇気をたたえたい。命の危険も顧みず、権利を求めて戦っている。学生の中に身体を張って自由を求める情熱がある。素晴らしいことだと思う。日本の若い人の中にもこういう、差別と闘うエネルギーはあるのだろうか。

 この機会に中国が変わる必要がある。自由解放に対して中国政府は不安を持っている。国民を信用していない。自立心の強い自国民から制御の枠を外せば、国家としての方向性が失われる。国家が成り立たないと考えているのだろう。

 しかし、中国の経済成長も止まろうとしている。その時には今存在する格差が深刻化する。いずれ、中国国内でも自由を求める声は起こるはずだ。今香港で起きていることは、中国本国でも必ず起こることである。

 中国は好きな国である。順序などないのだが台湾の次に好きな国である。中国の生み出した思想や絵画から多くのことを学んだ。そして禅宗の僧侶という形で、インドよりも中国の宗教の影響も深く受けたのだと思う。老荘思想には生き方の影響をかなり受けたと思う。

 内藤湖南の著作を通して、中国というものを学んできた。読み返してみている。だから、ずいぶん古い見方なのかもしれないが、とても内容が深く書かれていると思う。中国絵画史など、これ以上のものをその後書いた人はいるのだろうかと思う。

 西欧の美術を学びながらも、中国の絵画といつも比較をしている。西欧の芸術に精神性の部分で違和感を感じてきた。良く分からないまま、中国画の画面の背景に求められる精神世界に憧れがあったのだと思う。その点今の中国画の衰退は無残なものだ。日本の絵画もどうにもならないのだが、中国画の落差は凄いものがある。

 高校生の頃には伝統的な中国世界にあこがれる状態だった。中国が再生するためには、毛沢東の極端な考え方も止む得ないのではないかと考えていた。そしてあの頃予想した通り、問題を抱えながらも、50年の間に先進国に追いついた。

 この急速な国の変化で、様々な問題が生じている。特に中国国内の思想弾圧や人権侵害については、限度を超えている。然しそのやり方で統一した力で、経済発展をしたともいえる。今やアメリカが怖れるような大国の再生がなされたのだと思う。

 追いつけ追い越せでの相当の無理があった。しかし、眠れる獅子がついに起きたという事だろう。上手くこの無理をしてきて生じた、矛盾を克服できるかが、中国の今後の課題だ。香港問題に象徴される自由と人権だ。

 中国経済は沈没するだろうと盛んに主張した日本の中国評論家の幼稚さにはあきれていた。中国はそんなにやわな国ではない。中国は日本より複雑で、重層的である。簡単なことではつぶれるような構造ではない。人間も極めて優秀な人がいる。その一部の有能な人材を集めて国の運営を行っている。

 中国には3回行った。絵の交流団としてと、自然養鶏の指導という形である。絵画文化の衰退には驚いたが、中国人の有能さには驚かされるところが多々あった。自然養鶏など、指導しに行った私が恥ずかしかった。それでも少しでも学ぼうとしてくれる真摯な姿を見た。日本は遠からずおいてゆかれることだろうと実感した。

 その通りの経過である。しかし、日本の高度成長のさらなる倍速の様な目まぐるしい経済成長の背景には、凄まじい人権侵害や、民族弾圧があった。成長過程での無理とはいえ、度が過ぎるとは思えたが、中国政府がイスラム勢力のテロに必要以上に神経質になるのは、ロシアでも同じことである。もちろん中東でも、東南アジアでもそうである。

 黒だろうが、白だろうが、ネズミを捕る猫が良い猫である。歴史の過程では大きな犠牲を出さないためには、小さな犠牲は止む得ないという中国の考え方なのだろう。日本のような安定した社会ではありえないことだが、中国ほど、混乱し一度衰退した国が一気に先進国になるために行われた様々な無理である。

 そして、経済的な結果を具体的に出した。それが中国の歴代の政府である。だから様々な問題を抱えながらも、経済成長、生活水準の向上。こういう現実の恩恵を享受する中国人は強権横暴な中国政府を受け入れてきたのだろう。

 高度成長期はすでに終わろうとしている。人口も一人っ子政策どころではない、深刻な少子化状態が起きている。一気に人口減少が始まり老齢化するだろう。環境問題でも日本の高度成長期と同じで、でたらめがどこで収まるかである。

 香港で火の手が上がった。第一の焔が天安門事件であるとすれば、第二の焔が香港の民主化闘争である。問題は第三の焔が中国本土で燃え上がるかどうかである。中国政府が香港問題に対してどのような対応策を示せるかであろう。

 中国政府の賢明な対応を願うばかりである。再度天安門事件が起こるようでは、中国は深刻な問題を先送りすることになる。必ず大きな崩壊が待っているだろう。経済成長が無くなる以上、格差への不満は収まり切れなくなるだろう。

 中国の国内事情を考えると習近平政権は対応を出来ないでいるのかもしれない。アメリカとの経済戦争の最中である。香港は中国経済にとって、窓口である。香港ルートが絶たれることになれば、中国経済は打撃程度では済まない事になる。

 経済成長が、習近平政権の支持の基盤である。様々な問題点も経済成長があるから、仕方がないと国民から受け止められてきた。中国人は経済には敏感な人たちだ。これが、香港問題によって世界からの経済圧力が強化されれば、アメリカとの経済戦争は一方的な敗北になるだろう。

 日本はアメリカとの経済戦争のさなか、中国と接近しようとしている。ロシアに対してもアメリカが経済封鎖しているさなか、北方領土問題を持ち出した。どうも安倍政権の外交戦略は同盟国と言いながら、アメリカへの裏切り行為を行うようにも見える。何が強固な日米同盟なのかと思う。

 アベ政権は極めて打算的に動いている。それは、トランプもそうであるし、外交戦略としては普通のことなのかもしれない。韓国が中国との関係を強化しようとして失敗した。韓国の米軍基地の問題が中国には棘になった。結局は韓国はアメリカに従わされた形だ。

 日本がどうなるかであるが。韓国が一歩先に動いて、結果を見せてくれる。教訓にしなければならない。トランプアメリカも日本がこれ以上中国に接近することを阻止しするだろう。しかし、韓国ほど簡単には抑え込めない日本に対して、何を仕掛けてくるかだ。結局は中国との関係改善邪魔されるのではないか。

 日米安保条約の片務的な関係を持ち出すだろう。ここが日本の正念場になる。日本はアメリカとの関係を弱める選択をすべきだ。慌てることはない。徐々にアメリカへの依存を減らすことだ。中国との関係は切らないことだろう。軍事的な意味合いよりも、経済である。

 現代の戦争は米中経済戦争に見られるように、経済の戦争である。よほどのことがない限り、直接的な軍事力による攻撃はない。軍事力を使う事への世界からの批判的圧力は高まっている。アメリカはイランへの軍事介入は出来なかった。

 中国が香港に軍事介入が出来ないのも、それに伴い生じるだろう、世界からの経済的な圧力である。この状況において、日本は習近平氏を国賓で迎えようとしている。良いことだと思う。この機会に中国がより自由に開けた国になるように、アベ政権から進言してもらいたい。

 そのためには日本は中国を仮想敵国とする、防衛体制を止めることを習近平氏に伝えることである。沖縄の辺野古米軍基地を止めることを伝えればいい。当然琉球弧の自衛隊配備もやめることである。そうして尖閣列島の棘を平和な形で話し合い解決を目指すことだ。

 来日した王 毅外相にそういう方針を安倍政権は伝えなければならなかったが、きちっとできたのだろうか。それが香港への軍維持介入抑止にも影響があるはずだ。


 

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