ビルマの稲作農業
1920年代のピーク時,ビルマは年間300万トン以上のコメを輸出し世界最大のコメ輸出国となる。第2次世界大戦後も60年代初めまではタイと並び世界1位の座にあった。この分析は、日本の農業を考える上でも参考になる考え方だと思う。小学校で習った記憶では、まだビルマは筆頭のコメ輸出国だった。何故、ビルマの稲作が衰退したのかについての、興味深い論考があった。「米輸出大国への可能性」室屋有宏ビルマの現状がリアルに見えて来る。軍事政権とアウンサンスーチー氏だけでないビルマの普通の農民の姿が、浮かび上がって来た。第一は、何故ビルマがコメ輸出国であったのか。第二は、社会主義政権の大失敗。第三は、軍事政権下のさらなる農村の疲弊の原因。第四は、現政権の民主化の実像と展望。米という具体的なものを通してみると、ビルマの実体経済のことが見えてくる。驚いたのは、米の生産量や人口統計すら正確なものが欠落しているということ。統計の元になる数値は、何を考える上でもとても重要である。
米輸出筆頭の国が、国民が食べるお米にすら困るようになる過程の分析は、興味深いものがある。一つはプランテーション農業であったこと。インド資本によるものとあるが、この辺は実態がどうなのかもでは書かれていない。つまり、自然環境的には生産能力があるのだが、様々な要因からそれが果たせなくなる。62~88年の社会主義期において,①農地国有制,②供出制,③計画栽培制が導入。殆ど生産が上がらなくなる。その後軍事政権下では、自由経済が取り入れられるが、実態としては国による計画生産が続き、殆ど生産は上がらる事はなかった。そして現政権の開放政策にあいまって、08年以降少しづつ、米生産は増加傾向にある。しかし、国内需要がやっとという状況で、輸出環境から考えても、輸出可能になるには厳しい状況である。生産量,金額とも他の農作物を圧倒する規模である。総農地面積1,364万haの約3分2にあたる830万haで栽培されている(09年度)。このうち雨期作面積が700万ha,乾期作面積が130万ha,また単収は4.1トン/haである。
農業について経済の観点抜きに、文化的なあるいは、政治的な考察をしても意味がない。しかし、その経済が、人間の為の経済学でなければならない。人間の暮らしが良くなるためにどうしたらいいかという還元が、経済学には不可欠である。「文化系による文化系のための経済学の考え方入門」栗原裕一郎著に書かれたものが、あまりに一方的な経済学の概観で驚いた。経済学というものが文科系でないという事が、つまり理科系の数学のようなものだという前提なのだろうか。土台そんな分類の仕方は物を考える上で意味はない。農業には経済もあれば、技術もある。もちろん文化もある。その意味で、ビルマの稲作の分析の迫り方は、本来あるべき経済学的な意味でも、とても参考になった。プランテ―ション農業の問題である。米輸出大国になど、そもそもなる必要はない。
巨大な国インドと中国に挟まれた、多民族国家ビルマ。そこに暮らす人々は、類まれな人間力があるらしい。複雑な社会と、各民族の調和。そして、大変ではあるが、したたかに生き抜く人たち。これからどう変わるか注目の国である。ビルマの米輸出はインド資本によるものだったと初めて知った。インド商人は古くからアフリカに進出しているということはあるらしい。潜在的に農業生産力が高い地域であるとすると、今後、中国の資本進出などもあるだろう。外国資本が、ビルマの労働力が安いから、米のプランテーション農業を行おうということは、ビルマの将来にはとても悪い結果になる。時間がかかっても中国が行ったように自力更生である。農産物輸出に国の方向を見ない方がいい。どこの国にとっても農業はあくまで国内に充分な食料が生産される範囲ではないだろうか。