中国で不動産下落が大問題にならない理由

   



 日本では不動産のバブルが崩壊し、その後停滞の30年に入った。格差社会が始まり、希望が失われた。ところが中国では不動産バブルが崩壊しても、社会全体ではどちらかと言えば、関係ない空気だ。ざまーみろ、いつかこうなると思っていたよ。というのが、大半の中国人の感想なのではなかろうか。

 中国でも自分の暮らす家を買える人も居ることは居たが、富裕層と呼ばれる人達の投資が主たるものだ。加えて一部の良い企業に就職できた若い世代だが、最近は大卒の就職が出来ない時代が来た。マンションの実需が急減したのだ。無理してお金をかき集めたて、一儲けしようとした人が痛い眼を見たわけだ。

 大半は投資目的である。その投資が出来る人間は一握りの富裕層と、官僚などの特権階級である。上層階層の人達の場合、不動産が暴落しても、株が下がったのと同じで、誰に文句を言うわけにも行かない。投資が失敗したのは仕方がないことだと受け入れるほか無い。

 日本の不動産購入と仕組みが違うのだ。不動産の購入はまず計画段階で売り出され、先行して購入資金を払う。この購入資金を貸し出す仕組みもある。あくまで値上がりするという前提で出来た仕組みなのだ。すべては特権階級の利益のためだったのだ。

 この仕組みが出来たのは、確実に不動産が値上がりを続けたからだ。心配のない投資に見えていたから先払い制度でなければ、不動産は購入できないことに仕組みになった。こんな不自然な制度は何も中国の不動産売買の伝統的なやり方ではない。

 始めて中国に行ったときが、1992年の6月である。この時にすでに、不動産投資が話題になっていた。三〇年前だから、日本が停滞を始めた頃だ。入れ替わるように中国のバブルが始まった。上海は豊かになり始めていたが、地方はまだ貧しいままであった。

 マンションなどを建てる為には、行政の許可が必要である。マンションが出来れば地方政府も潤うので、マンションを作る業者に土地の使用を許可する。むしろ地方政府が、マンション建設業者を誘致、誘導することもある。政府と業者で必ず値上がりする不動産投資を展開したのだ。

 土地制度が日本と違うからである。土地は個人所有ではないのだ。複雑で細かくは分からないのだが、土地は公共の物で、使用者に貸し出すという仕組みだ。だから、土地を貸し出す地方政府の官僚は、大きな権限を持つことになる。これが利権の巣になる。私にも買わないかという人が居た。

 地方政府の関係者に優先的に販売することで、業者は許可を得やすくなる。権力者は必ず儲かる仕事だから、次から次への不動産開発をする。当然、権力者には安く、あるいはただで不動産を提供するようなこともあったであろう。こうして、不動産バブルが信じがたい形で展開された。私は値上がりするとは到底思えなかったので、買うような気にはなれなかった。

 こうして、マンションを建てて販売する会社と地方の官僚の癒着が蔓延っていった。それで互いに儲かれば良いというのが、実際の所なのだ。ここで生まれた富裕層が、あちこちの不動産投資に割り込んでくる仕組みだ。こうなると、建物は計画段階で販売できると言うことになる。

 投資なのだから資金集めのために先行募集する。建設費を確保してから建築に入る。中国人はみんな商売人感覚だ。その時代でも日本のマンション価格とさして変らなかったのだ。儲けられそうなら一枚噛みたいとなる。中国は日本の数倍の早さの経済成長であるから、家を購入する階層がいくらでも増えるように見えたのだろう。

 しかし、こういう自転車操業は不動産が値上がりが続くことが前提である。必ず上がらないのであれば、誰も先行購入などしない。地方の行政も建設許可を出さない。不動産をの最終利用者である若い世代の就職が滞り始めた。不動産投資が終焉を迎えたわけだ。それにしても30年は長い方だろう。

 この仕組みは必ずいつかはこうなることは目に見えていた話なのだ。富裕層は今や国内の物件よりも海外の物件に投資を向けている。将来中国での住宅購入は頭打ちになるとみられたからだろう。就職が難しくなれば、将来住宅を買える人達も減少するのではないかというのが不安材料である。

 こういう不動産バブルの崩壊であるから、普通に暮らしている人には関係が無いのだ。むしろよい気味だと感じている人の方が大半なのだ。今もかなり高値なのだ。下がれば、自分も買えるものになるかも知れないぐらいが大半の人の感覚だ。だから不動産バブル崩壊は社会問題化はしないわけだ。日本では中国経済の崩壊の前兆と言う人が多い。

 社会は落ち着いている。買って値上がりを見た特権階級の官僚などは、利権で有利に買っていたことがばれるから騒ぐわけにも行かない。お金を集めて、途中で建設が中断したビルに投資した人が住めないもので騒いで居るぐらいだ。これは全体から見れば少数派なのだ。

 では、不動産会社の倒産が経済に対してどういう影響が起こすのかである。不動産バブルが崩壊したと言っても、実際には不動産価格の下落が起きていない。理由は権力者や富裕層の投資家が、投資対象として考えて、買い支えなければならないと考えているからと想像され
る。

 日本の株価と同じである。実体経済から考えれば、株価が暴落しないのは不自然である。しかし、政府や企業が株式投資で買い支えていて、下落させられない状態である。だから、下がる要因はいくらでもあるのだが、一定よりは下がらない仕組みである。

 これは実体経済とは別の動きだ。中国の不動産投資も実体経済とは別物なのだ。実体経済はまだまだ成長余力はある。上昇意欲の強い、労働意欲のある貧困層が山ほど居るからだ。教育も十分受けた階層もだぶつくぐらい居る。人口減少とは言え、日本とは状況がかなり違う。

 中国経済は皇帝になってしまった習近平次第である。この人は建前は素晴らしい。共同富裕など是非とも実現してもらいたい。しかし本音はよく分からない。独裁に向けてすべての力を注いできたのだろう。その結果血を流さす皇帝になった。

 そして何をするのかである。皇帝になるために体裁のよいことばかり主張はしているが、実際はどうだろうか。本当の共産主義者であり、富を人民に均等に分配するのであれば、中国は最強の国になるはずだ。今のところは富裕層がいる共産国家である。

 習近平は未知数である。独裁にならなければ、中国を指揮できないと考えたところは毛沢東と同じである。しかし、経済は成功し、中国は豊かになり始めた。世界経済の中で中国という国家資本主義の運営をしている。一帯一路と共同富裕の成否はこれからである。



 

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