「虎に翼」異例ヒットと悪評

「虎に翼」はほぼほぼ見た。最初のシシヤマザキさんのタイトルバックで度肝を抜かれて以来。毎朝タイトルバックを真剣に見た。毎日見ている内に何故その魅力に引き込まれたのか、すこしづつ分ってきた。これは次の時代のアニメーション藝術の世界なのだ。
ドラマの方も興味を持って、最後まで見ていた。後半になって結構悪い評判が出回るように成った。そうだろう、今の日本が乗り越えられない問題点が列挙されているのだ。夫婦別姓程度でも認められない人達には耐えがたいドラマだったはずだ。
日本国憲法の重要性をこれほど明確に打ち出したドラマもなかっただろう。最近NHKが大政翼賛放送局になったかと思うことが多かったが、ドラマという形で、斜めから主張をしたように見えた。確かにドラマだから、自民党も指導をしようにも難しかったのだろう。
脚本は吉田恵里香さん。素晴らしい脚本だったと思う。特に法律の何が大切なのかを、見ている私に教えてくれた。人権という物を意識させてくれたことが素晴らしかった。そして法律という物は運用する物によって、良くも悪くも成るという事が分った。
その意味で法律はAIが行うべきだという私の主張は、今の憲法解釈が間違っているという前提になる。人間が行うから、矛盾が生じるのだ。誰が解釈しても、憲法の解釈は同じでなければおかしいだろう。それを無理矢理ゆがめたのは安倍晋三だ。
吉田さんの脚本の作品は始めて見た。すごい人がいる物だ。自分の主張をきちっと言える人は最近余り見なくなったから、こういう方が出てきたと言うことはまだまだテレビも期待できると言うことだ。最近のテレビドラマは漫画を脚本としている。
吉田さんの次の作品が今から楽しみになるが、テレビドラマはまず見ないので、見れるかどうかは分らないが。主演の伊藤沙莉さんは素晴らしかった。いつも笑わして貰うが、これほど適格な表情ができる俳優も少ないだろう。百面相である。歩き方の多様さもさすがである。
タイトルバックは何度見ても見飽きることがなかった。そして、このタイトルバックの面白さをその都度確認した。表現方法が実に多様なのだ。何しろ自分の描いた絵以外のものを自分の絵に取り込んでいる。そのことの意味破風買い物があると考えたい。
まず白の扱いである。画面全体は実は淡い背景色がある。それは白を生かす為だ。白を効果的に使うのだが、その白は描いた白ではなく塗り残しの白なのだ。その白を強調するために背景色を紙の黄ばみのような、絹の偏食のような一段調子を落としたのだ。
一番印象的だったのは、誰もがあれと思う、法服の柄である。今の裁判官の法服は黒一色である。何故あの美しい刺繍模様が消えたのだろうか。あの白い刺繍は弁護士の法服である。裁判官は紫。検察官は赤と決まっていたのだそうだ。その立場を平たく無くす意味で、戦後は黒一色になったらしい。
あの白の刺繍の胸飾りは美しい。それは白抜きでその線描が自然に見えるからだ。あの技術レベルは高い。しかも法服の黒の塗り方も筆跡を残した、荒い塗りで服の動きを表現している。それは背景の花模様のチラシ方の巧みさにも繋がっている。
すべての色の塗り方が適切で、空間の表現が的確なのだ。あえて一点気になったのが、顎の下の色の濃さだ、顔を協調したいあまりに、顎の下を濃くしたのだろうと思われるが、その必要は無い。十分顔は描かれて居るのだから、特段強調したのはテレビを意識してかも知れない。
自分の顔を描くときにはもっと自由な影の表現をしている。ただいままでの作品よりも、この虎に翼で一段と作品のレベルが上がったのは、共同制作という仕組みにある。またディレクターの映像作家と医師手の演出も加わって、完成した物になったのだろう。
これからの日本のアニメ映画は、宮崎駿風の物から、シシヤマザキのような描写を越えた表現に進めば良いと思う。描写性の強い者が今評価されているのは、この時代の芸術理解の低さのために起きている。日本のアニメが世界をリードして行けるかどうかは、シシヤマザキさんにかかっていると思う。
世界にはこの映像の良さを理解できる人がいくらでも居るはずだ。