シーラ原田んぼの冬期湛水

   



 シーラ原田んぼは稲刈りが終わり、すぐ耕して3日間乾かしてから水を入れた。すぐ水を入れれば良いと思ったのだが、一度乾かしてから水を入れた方が良いというのが、石垣島で田んぼをやられて来た方の意見だった。本当だろうかと思いながら、助言に従いやってみた。

 一度乾かした土が水につかるとかえって簡単にとろけると言うことだった。乾かす3日間よりも、まだ湿気ている土にそのまま水を入れた3日間の方がむしろ土は軟らかくなると思えた。乾くと日干しレンガのように堅くなるのだから、むしろ軟らかい間に水を入れた方が良いと思うのだが。石垣島の土壌はそういう物だという地元の方の意見に従った。

 3日間程度では乾かしたことにも成らなかったのだが、その上にその間に雨がふった。19日には小田原にゆく。22日以降は農業用水は止めるという連絡が、ダム事務所から来たそうだ。そうであれば14日に1度目の代掻きをするほかない。そして、もう一度17日今日2回目の代掻きをする。

 7日に稲刈りが終わり、すぐ鋤で耕して、10日の夜には水を入れざる得なかった。翌朝には水がほぼ溜まっていた。荒起こしをして、12時間でまた湛水できる田んぼなのだ。畦の直しもまったくしていない。一年耕作して、畦直しがいらない田んぼというのはすごい。縦浸透もほとんど無い田んぼ。小田原とは土壌がまるで違う。

 一番驚いたのは風で土壌が寄せられて、イネを押し倒すのだ。強く風が吹くから、畦際には防風林が必要ではないかと思う。今度作る田んぼは畦を1メートルは取り、畦にブーゲンビリアを植えるつもりだ。ブーゲンビリア園を作られている、山本さんと相談してみたい。

 石垣島の土壌は還元化が進む可能性がある。つまりメタン発酵をしやすい田んぼである。有機質を入れない科学肥料を使う農法であれば、メタン発酵する腐食は少ない。しかし有機農業を目指して堆肥を入れたり、緑肥を育てた農法では縦浸透の無い石垣の田んぼではメタン発酵が起こりやすいことになる。

 どう克服してゆけば良いのだろうか、今後の観察課題である。水管理を初期から間断灌水にするとか、流し水管理にする必要があるのかもしれない。来期は腐敗防止のためコロガシをする必要があるのかもしれない。今年田んぼの奥の法がおかしくなったのは、堆肥などが風に奥に吹き寄せられ腐敗がおきた可能性がある。

 14日には水牛わかばのコロバシャ代掻きである。最近わかばを働かせていないので、大丈夫なのか心配だったが、若葉は元気よくコロバシャ代掻きをしてくれた。ただ、代掻きはしてもしなくても、水はすでに溜まっているほど水漏れの少ない土壌。

 2階代掻きを行いさらに縦浸透を無くすということになる。畦からの水漏れももう一回点検整備である。水が漏れない、縦浸透が無いという状態であれば、一週間に一度雨があれば、水は切れないことになるだろう。

 今日コロバシャ代掻きを行う予定である。丁寧な代掻きをすると、雨だけで水が保たれる可能性が高まる。雨が降らないで水が干上がることがあれば、脇の川から水をポンプで汲み上げることにする。昔のように山の方から雨が入りやすいような構造も考えたいと思っている。これは小田原に行く前には無理なのかと思う。

 水を溜めたならば、出来ればアカウキクサを見付けて入れたいと考えている。アカウキクサがもし見つかれば在来の希少な浮き草である。これを増殖することは絶滅危惧種であるのだから、必要なことではないかと思っている。アゾラの一種であるために、在来のアゾラはすでに純粋なモノは失われているのかもしれない。

 それならそれで、何か冬でも育つ水草を探したい。冬期湛水にして、水草が増えて緑肥になればと考えている。石垣の冬の気温であれば、水を湛水しておけば水温も上がり、水草は増殖するのではないかと見ている。代掻きが終わったならば、18日までに田んぼに入れる水草を探さなければならない。

 冬期湛水で土壌が良くなるためには水草による腐食の増加が必要なはずだ。宮城県大崎市の蕪栗沼周辺のラムサール条約にふくまれている、水田では天然記念物で あるマガンやハクチョウなどの水鳥のねぐらを創出するために冬期湛水を行っている 。

 冬期湛水による一番の水田の改善はとろとろ層の形成が進むことだろう。年間を通して切れ目の無い湛水によって、土壌微生物の活動が活発化して、田んぼ土壌にとろとろ層が形成されることになる。石垣の土壌は独特のモノで、細かな土なのだが、風によって吹く寄せられイネを埋め込んでしまうようなトロトロ層とはかなり違うものだ。

 農薬不使用や冬期湛水を行うことで、石垣島であれば、特別天然記念物のカンムリワシのエサとなる動物が増加するはずだ。カエルが増加することになるだろう。シーラ原田んぼには守り神のように、いつも来ているカンムリワシがいる。餌場にしているに違いない。

 イトミミズ類 、底生動物,昆 虫類,両生類の増加が連鎖的に行われることになる。無農薬で田んぼを行うとどこでも起こることだが、これが冬期湛水になれば、年間を通して生き物が増加して、エサが豊富になる。水鳥だけで無く、陸鳥の餌場になっている茨城県の事例もある

 以下冬期湛水の事例をまとめておく。

 海外の事例としては、スペイン北東部の 地中海に突き出ているエブロデルタはラムサール 条約湿地であり、その野鳥特別保護区周辺では、EU の共通農業政策による助成金の効果もあり,水鳥の生息環境を向上させるために冬期湛水が広い範囲で実施されている 。

 カリフオルニ ア州では 1991年より水田でのわら焼きが禁止され, その代替わら処理法としてわらを分解するために湛水す る事が奨励されて、冬期湛水が実施されている。

 日本でも 2011年度から環境保全型農業直 接支援対策の要件として冬期湛水管理が採択されている。これは石垣島でも是非行政は検討すべき事では無いだろうか。 2013 年度以降は冬期湛水管理は地域特認取組になり、減 農薬、減化学肥料栽培を実施することが必要条件になっている。実施面積は全国7079haに達して いる。 

 冬期湛水は,冬期から春期に乾燥する地域では土壌有機物が風により減耗してしまうことを抑制し,土壌肥沃度の維持に有効になる。生物多様性の向上や水質浄化といった水田の環境面への効果のほか、雑草抑制などの営農面への効果も明らかになっている。 

 また地下水を環境することも報告がある。地下水位計測の結果、実施田の地下水位の上昇はもちろんのこと、慣行田 での地下水位 の上昇も確認された。このことから、冬期湛水によってもたらされる地下水の涵養効果は 冬期湛水実施田だけでなく、その周囲の地域にまで地下水位の上昇が起きている。

 - 「ちいさな田んぼのイネづくり」