「ポツンと一軒家」に住んでいた。

   

 ポツンと一軒家というテレビ番組がある。何かの折に見ることがある。人ごとでないようで、おもしろくて大抵は終わりまで見ている。上空からの写真で、たぶんグーグルマップで探した、山の中の一軒家を探して行くという番組である。

 今の日本にもこれほどの所に住み続けていた人がいたのかと言う驚きがある。子供の頃なら、当たり前の場所である。そういう昔の暮らしを思い出して、懐かしくなる。昔は歩いてしか行けないところに、普通に集落があったのだ。

 まず麓の集落で、村人を探して空撮の写真を見て貰い情報収集をする。本当はこんなことをしなくたって、優秀なナビシステムを使えば、簡単に家まで行けるわけだが、番組としては、合理的では無いそういう手順が導入部に必要なのだ。

 下の集落の人と山の上の住民の感触が確かめられる。色々聞くのだろうけれど、ここでの聞き込みは必要最小限な事で、まだ、実際のことは不明という形で、進められる。たまにはここでおもしろいものを見付けて、番組が脱線することもある。

 その家の人は実は近所の人だと言うことで、そっちに案内されてしまう時もある。いずれにしてもまず地域の空気とその家がどれくらい地域から途絶しているかを見ている人に感じさせてくれる。いよいよ、出発してそのぽつんとした一軒家まで行くことになる。

 案外連れて行ってやるよと言う人も少なくないが、番組としてはそれでは若干秘境感が無くなるので、かえってその親切はありがた迷惑なのかもしれない。多くの場合は、よく分からない、まっすぐずーと行くと、橋がある。

 橋を渡ると左に入る道があるので、道なりにどんどん行けば、看板がある。その看板からは道が細くなるので、自動車では無理かもしれない。などという説明を頼りに一軒家を探しに行くことになる。この道の説明は上手な人と、まるで頼りにならない人がいる。

 道が悪いのはいつものことである。取材の自動車がファミリーカーで軽自動車では無い。ところが実際の道は軽トラ以外は通れないような道ばかりだ。だから、余計に危ないところに臨場感が出て良いのだろう。改めて軽トラは世界一の自動車だと思う。小さいし、性能も良い。早く使える電気軽トラが出て貰いたい。

 いつもの事ながら、ぽつんと一軒家は今では大抵車で行けること場合が大半である。車は行けないぽつんと一軒家も過去には無かったわけではないが、その家は確か、最後の急坂には運搬用のモノレールがあったかと思う。

 こうしたぽつんと一軒家はたいていの場合、その家で生まれたお年寄りがそのままそこに、止まって暮らしているということが多い。お年寄りがご夫婦の場合は、大抵近所の人がおばあさんだ。昔はそんなに遠くの人と結婚する人がいなかった。

 生まれた頃には車の道が無くて、歩いて1時間もかけて麓の小学校まで歩いて通ったと言うことになる。さらにすごい場合は、その歩いて通った道を自動車が通れるように、人力で道路を作った人が案外にいる。良くもこの切り通しを人力で切り開いたものかと思う。急斜面を削って作った道が、崩壊寸前と言うこともままある。

 生まれた場所を生涯離れること無く、80年も一貫して暮らし続けたという人がいるというのもすごい。これも、昔はほとんどの人が同じ場所で生涯暮らすものだった。但し、そういう方は希有な例で、多くの場合一度は出て麓の集落で暮らしている方が多い。農作業に山の家まで上ってくると言うことになる。ある意味二拠点生活がとても多い。

 そのような地元の方だけでは無い。中には都会の方が、入植して山の中で広大な農地を開拓して暮らしている人もいる。先日の人など、麦を作っていて、なんとその山の中の農地だけでは足りないので、麓の集落の放棄地をどんどん借りて広げて、県で一番の生産者だという人さえいた。

 ポツンと一軒家の住人はそれぞれに個性的である。この番組のメインは山の中の一軒家を探すだけの話ではない。この人間金太郎飴の時代に、集団を離れて暮らす個性的な人を紹介するということが魅力なのだろう。変わってるけどおもしろい。人間の魅力だ。

 見ているものは山奥の別天地にくらす、独特の人から出ているオーラの爽快感なのでは無いだろうか。どの住人も実に人間なのだ。人間はこういうものだったよなと言うような、感慨が湧いてくる。人間は飼い慣らされていないと、人間らしい人間になる。昔は誰もが普通に人間だった。

 遠来の客人を温かく迎えてくれる。これも日本の田舎の伝統である。ポツンと一軒家がいつ来るかと待ってましたと大笑いになる。山の中に暮らすから変人というわけでは無い。帰れ帰れとやたら怒鳴るような人は番組取材を拒否するから撮影が出来ないのかもしれない。たぶんそんな人はまずいない気がする。本当の状況もちらっと教えて貰いたいものだ。

 この番組の良さはなんと言っても制作費が安上がりである。出かけて行くのはカメラマンとディレクターの2人である。たぶん飛行機か、場所によっては新幹線で近くまで行く。そこでレンタカーを借りて、ポツンとを探しに行くことになる。

 レ
ンタカーの為だと思うが、山の中に行くにしては不適当な車である。ジムニーのような車がいいと思うが、借りにくいのかもしれない。それなら、軽トラにした方が良い。なぜって、ポツンとの住民の方は大抵は軽トラで移動している。軽トラ会社のスポンサーを付けて、現地の飛行場に車を回して貰うようにする。

 日本の山道は軽トラがギリギリの道の方が多い。これは絵を描いきながら日本の山の中をあちこち行ったので、実感がある。大きい車の中から書いた方が、絵は描きやすいが、軽トラで無ければ行けないという所は案外に多い。

 スタジオには所さんと今でしょうと言う塾の先生とゲストの三人がいる。所さんがやると大抵の番組が気持ちよいものになる。すごい資質の人だ。この3人の出演料がそこそこかかるのだろうが、それだけで1時間番組が出来るのだから安上がりの方だろう。誰が考えたのか気持ちの良い番組である。

 山中でのポツンと生活の方法が垣間見える。一人一人まるで違うようだが、たいていの人は農業はしている。又そこでの生活術が素晴らしい。きれいに整備している人ばかりだ。草刈りが大変なことだろうと思うが、余り苦にしていない。何もしないでただ暮らしているという人はまずいないものだ。

  山北で暮らしていた家はポツンと一軒家でもおかしくない場所だった。自動車免許を取るまでは歩いて通っていたのだから、良くも歩いたものだ。1時間近くかかった。今思えば、若い内にあんな暮らしが出来たのは、最高に愉快なことだった。

 自分の肉体だけで、生きることを探すというのは生きる醍醐味では無かろうか。これほどおもしろい生活は無いだろう。そういう暮らしを試せる機会があれば、是非やってみたらいい。人間自分の肉体力だけで、自給自足が出来るかどうかの、挑戦である。若い内だけの可能性だ。
 

 - 暮らし