ミャンマーで国軍のクーデター
ミャンマーで国軍によるクーデターが起きた。日本に外交努力があるとすれば、平和外交を表現できる重要な場面が訪れている。もしこの場面で日本の外交努力が成功すれば、東アジアにおける日本の評価は高まるに違いない。何をさておいても日本はできる限りの努力をすべきだ。
日本政府には迅速に動いてほしいものだ。攻撃的武力を整えるよりも、平和外交によって、国際関係が改善されることを、クーデターの起きたこうしたときにこそ示すべきだ。その意味でミャンマーのクーデターは日本にとって重要な表現の場にする必要がある。ミャンマーと日本はそういう意味で関係が他の国とは違う。
2010年には軍の独裁が終わり民主化が行われた。2015年ミャンマーに民主的な選挙による新しい政権が出来た。問題の多かった軍事政権が民主的な政権NLDに交代した。そして2020年の選挙で軍隊の議員特別枠が少数になり、あっとうてきにNLD議員になった。このことを国軍は不正選挙があったとして、抗議を続けていた。そして、ついに今回のクーデターによる国軍の独裁政権に戻ることになった。
日本は一貫して軍事政権時にも関係が強い国ではあったが、民主国家ミャンマーに期待をして、多くの企業が進出した。世界で一番多くの投資と援助を行ってきたのが日本である。
ミャンマーは二つの大国、中国、インドと国境を接して、歴史的に困難を極めてきた国である。そのことが独特の国柄を形成したと言える。民族的にも100を越える部族が存在し、国内の部族対立も常に存在してきた。日本の大東亜共栄圏思想のアジアの進出に対しても、好戦派もいたし、協力勢力も存在した。英国の植民地支配に対して戦う勢力もあった。
日本軍を一番巧みに利用した国とも言えるのだろう。日本は同じ仏教国と言うことで、イスラム勢力との対抗に利用させられたとも言える。そうした歴史的背景から、日本の敗戦後唯一反日教育を行わなかった国である。武力抗争を単純に悪者を作って理解するような単純な国ではないのだ。
日本はミャンマーとは歴史的にも関係の深い国だ。ビルマの竪琴がどれだけ史実に近いものかは分からないが、ビルマの仏教は何か日本の全集に通ずる、個人の悟りの世界を求める感覚がある。タイの仏教とはすこし違うと言われている。上座部仏教でありながら、大乗仏教の影響を受けてもいる。
ヨガの影響があると思われるが、座禅、立禅、動禅がある。こういう所が興味があるところだ。道元の考えに近く、自己本位の修行である。これが瞑想法として、世界に広がっている。むしろ日本の仏教よりも、瞑想法として世界では認知されている。
自らが安心立命するための出家であり、衆生を救済するという大乗仏教とはすこし異なる考え方である。道元の禅が一般の日本の仏教と異なるように、ミャンマーの瞑想の世界は道元の禅に近いのではないかと勝手に想像していた。
アウンサンスーチー氏のロヒンギャ迫害は、全く理解しがたいものだった。スーチー氏に国を統制する力量が不足している現実が露呈していた。ロヒンギャを保護すれば、軍からも国民からも反目されると言うことなのだろう。誰が統制するにしても難しい国柄ではあるのだろうが、人権の迫害を容認する点では日本が支持できるものではない。
ロヒンギャはイスラム教徒の少数民族である。バングラディシュ人であり、ミャンマー人ではないというのが公式見解である。国連のロヒンギャ虐殺の非難決議をしたときにも日本は棄権をしておどろいたが、ビルマ政府との関係を保とうとしたのだと思う。経済封鎖をするどころか、援助を継続していた。外交はすべからくアメリカにお伺いを立てる日本だが、ミャンマーに関しては日本の関わりも複雑である。
太平洋戦争後唯一のアジアの親日国ミャンマー。日本としては世界最大の援助国として巨額の経済協力を続けてきている。少数民族武装勢力との停戦・和解への仲介の協力。難民への人道支援等努力を続けている。ロヒンギャ問題で動けない国軍との軋轢を、単純には捉えなかったのは日本と中国であろう。
中国は世界への影響強化の一つとして、当然ミャンマーへの影響力の強化に努めている。今回の国軍のクーデターの背景に中国の画策が働いていないかは、十分検討しなければならないところだろう。欧米寄りのスーチー政権よりも、中国にとっては国軍政府の方が扱いやすいという可能性はある。
しかし長期にわたる歴史的な中国の進出を考えれば、中国の圧力を警戒し続けてきた国柄である。簡単に中国を受け入れるはずは無いとかんがえていいのではないだろうか。日本の方が関係が良好で、今回の国軍のクーデターを平和的に解決できる可能性があるのではないだろうか。中国は背景に武力があり、日本にはミャンマーを軍事的に影響を与える野心も力もない。
平和的解決とはスーチー氏および、クーデター前のNLD政権の議員の拘束をとき、もう一度公正な選挙を行うことではないだろうか。もし、それが出来るのであれば、国軍に対しても平等に扱うことを保障する必要がある。そのための選挙の実現に努力をする。軍人枠の増加なども必要なのかもしれない。国軍がのめる条件を模索することだ。
日本には攻撃的武力がないと言うことが、平和外交の大きな手段になる。茂木外務大臣によると、情勢を時間をかけて分析して行くというようなことであるが、ビルマ大使館での情報収集は出来ていたのだろうか。こうした事態が起こることを想定してはいなかったのだろうか。
本当の意味での日本の外交能力が問われる状況になっている。アベ政権は世界中を訪問して歩いた。そのことは悪いことではないが、外交で具体的な成果は、それこそカケラも残せなかった。平和外交を支える者は情報収集と分析能力と、日常的な人的な関係構築である。
何とか優秀な日本の外務省が、ここで力を発揮してもらえないものだろうか。経済的にも、日本はアジアとの関係を重視して行かなければならない。特に国軍をクーデター政権として、経済的圧力をかければ、当然中国がそこに入り込むことになるだろう。
今中国が軍事政権に対して、静観している態度をとっているのは欧米が経済封鎖などの圧力をかけることを待っているようなものである。日本はむしろ軍事政権と連絡をいち早く取り、糸口を見つける努力をすべきではないだろうか。