中国が民主主義を目指しているのかどうか。

   



 「全過程人民民主」という概念を掲げ、中国には自国の実情に根ざした民主主義があると主張を始めた。これは重要なことで、将来中国が民主主義国家になることを目指していると少なくとも表明したのだ。世界の平和のための福音である。世界一の経済大国になろうという国が、独裁国家を目指しているかのように、他の国からは見えているのだ。

  アメリカ、英国、オーストラリア、カナダが北京オリンピックへの外交ボイコットを決めた。アベ氏は日本も外交ボイコットを表明しろと主張している。日本はそんなことをしてはダメだ。あえて外交を行うべき時だ。日本の平和主義を示すべき時だ。

 まず、世界中の大半の国が民主主義国家など実現していないと考えなければならない。いつも民主主義の代表の様な顔をしている、アメリカはいまだ民主国家には程遠いいものがある。大統領選挙が不正に行われたと、いまだに前大統領が叫んでいる国である。まともな民主主義が行われているとは言い難い。

 先日もアメリカ軍の三沢基地のジェット機が、不時着をするために、燃料タンクを民家のそばに落下させた。こんなことが繰り返し起きている。すぐに米軍に対して原因がはっきりするまで、戦闘機の訓練を中止するように要請した。完全に無視をして翌日から訓練をしている。この態度の何処が民主主義であろうか。

 中国が民主主義国であるとすれば、軍事政権と言われるミャンマーは民主主義国家なのであろうか。異端児に見える北朝鮮だって、中国流に言えば民主主義国家という事になりやしないだろうか。民主主義国家であるかどうかのバロメーターは、誰もに発言の自由があるかどうかでわかる。

 アメリカは大統領が都合の悪いニュースはフェークニュースと叫んでいた。たぶん民主主義がだいぶ後退している。中国では天安門事件については発言できない事になっている。北朝鮮となれば、将軍様以外には発言の自由はないのだろう。

 ロシアではプーチン批判をしたジャーナリストが、暗殺されるような事件が相次いでいる。批判の自由のない国は民主主義度が低い。クリミヤ半島のロシア化を軍事支配だとして、アメリカおよびEU諸国はロシアを経済制裁している。

 一体、ロシアを選択したクリミヤの住民の意思は民主主義ではどのような評価をすべきなのだろうか。この世界の争いの中で、クリミヤの住民の意思というものを、誰がどのように確保することが出来るのだろうか。本当の生の声は聞こえてこない。

 もちろん日本の民主主義も達成されるにはまだまだ遠い。石垣島では自衛隊基地の誘致を巡って、3分の1以上の市民が住民投票を求めて署名を提出した。住民投票を行えば、圧倒的に基地反対が上回るとされていた。沖縄においては辛い戦争体験がある。軍事基地を望む住民など極めて少数派である。

 ところが、住民投票は拒否された。その上に自治基本条例の住民投票条項の不備を理由に、最高裁判所まで住民投票をしなかったことを正しいと判断を下した。まさに、民主主義国家の司法制度の根幹が腐っている。行政と司法が民主主義を軽視した結果である。こんな日本国が民主主義国家になるためにはまだまだ時間が必要である。しかし日本にはこのような意見を表明する自由はある。まだしもの民主主義国家と言えるのだろう。

 国家主義の代表と目される中国で言えば、香港の自立した政治体制を、習近平体制のもとに併合した。香港の住民の選挙で選んだ香港の議員も、国の方向に反する思想を持つ人間として、逮捕されてしまった。これが民主主義国家の行う事であるとは、一般的な考えであればゆがんでいるとしか思えないだろう。

 そして、台湾を5年以内に武力を持って併合するとまで宣言している。今まで考えられてきた民主主義の理解とは、おおきく異なる民主主義が中国にはあるというのだろうか。「全過程人民民主」というものがどんな民主主義なのか、わかる範囲で調べてみる。
 
 中国共産党新聞の文章を読む限り、変わった観念の民主主義が中国にあるという訳ではないようだ。少なくとも表明されている文章では、目指すところは少しも日本の民主主義と変わらない。むしろ社会主義に基づく、理想的な民主主義が行われていると、思いがけない主張をしているのだ。

 ではなぜ香港を軍事的に威圧して、香港の住民の発言の自由を奪うのであろうか。民主主義的に形成された議会を閉鎖してしまったのか。それは香港では反国家的思想が蔓延しているという事なのだろうか。そこでの自由を求めた香港市民の声はすべて、反国家的な主張だったという事になるのか。

  台湾問題で考えた時に、台湾では中国が理想とする社会主義国家には反する思想が蔓延しているので、中国政府が正しく指導する必要があるから、軍事的に支配すべきという事になるのであろうか。もしそうであるならば、これは独裁国家の思想であるとしか言えない。私には台湾の方が国民に発言の自由があると断言できる。

 中国共産党の考える考え方だけが正しく、そのほかの考え方はすべて指導し、正して行かなければならない「間違った思想」という事が中国政府の考え方のようだ
。「全過程人民民主」は間違った思想を持った人民を正すものということになる。この考え方は民主主義からほど遠いものである。

 民主主義では人間の多様性をまず受け入れなければならない。必ず少数派というものが存在する。少数派の意見を尊重することが、民主主義の重要な考え方の原則である。国家の正しいとする方向と異なる、少数派をどれだけ国家が認めて受け入れることが出来るかが、民主主義国家としての熟度という事なのだろう。

 台湾を中国の一部とするのであれば、中国自身が早く民主主義の実現をしなくてはならない。妙な屁理屈を述べていれば、中国という国の民度が疑われることになる。民主主義は目標であり、到達など出来ないものである。繰り返し民主主義を問うてゆくのが、民主主義国家である。民主主義国家こそ、いまだ未熟であるという自覚がなければならない。

 今の中国が民主主義を達成した国という認識は間違っている。民主主義に向かう過程にあるという事なのだろう。一日も早く自らが民主主義国家を実現すれば、台湾は喜んでその一部になることを望むだろう。もし既に民主主義国家であると強弁するのであれば、それではアメリカや日本よりさらに未熟な民主主義国家という事になる。

 中国に別の民主主義が存在するという事ではないことは言えるようだ。そう思いたいではないか。そうであれば、永遠に対立が広がるという事ではないだろう。互いに民主主義に向かって努力して行けば、いつか思想合一できる時代が来る可能性はある。

 中国は聡明な人の国である。禅宗を生んだ国だ。独裁政治をいつまでも受け入れている人たちではない。まして、今の状態を民主主義を目指す国家であると強弁するのであれば、その矛盾が自らを苦しめるだろう。そうでないから、独裁国家という事になる。その矛盾に必ず気付く時代が来る。

 - Peace Cafe