トランプ大統領の狂気はどこから生まれたのか
アメリカではトランプ大統領が選挙結果を不正だとして、支持者を煽り、大統領を決定する議会に乱入をさせてしまった。この驚くべき大統領の姿は今の時代の浅ましさの象徴のように見える。それはトランプ氏ひとりの問題では無く、世界の政治家に起きてきている、ある傾向のようにも見える。
この狂気は絶対権力者に成り、世界を自分の思うように動かしたいという独裁者願望のような価値観に揺り動かされているように見える。世界戦争の反省から、徐々に育てられてきた議会制民主主義の意味が薄れてきている。強権力で無ければ競争に負けるだろうと言う考えが生まれているように見える。
ところが、そうした民主主義国家に芽生えた独裁的傾向は、かえって中途半端で優柔不断のものとならざるえなかった。そこでより強い独裁的政権を目指すべきだとする支持者が増え始めているのだろう。この狂気に走るようなトランプを選択するアメリカの有権者が7380万人いるのだ。
アメリカはコロナ対策では世界で最も失敗した国になった。能力主義と格差社会がその背景にあると言うことが見える。国としての統一した動きが取れない。マスク一つでもしないと考える人と、するべきと言う人で別れてしまっている。科学的判断が出来ない状況にある。特にトランプ支持者はマスクをすることを嫌うようだ。弱虫に見えると言うことなのだろうか。
一方で中国においては、一党独裁の国家の利点を生かしたかのように、見事にコロナを押え込んだ。世界は独裁国家のほうが資本主義競争に勝利するかのような様相を見せ始めている。2028年には中国がアメリカを抜いて世界一の経済になるという予測すら出てきた。そのことを疑う人は少ないのではないだろうか。
その中国はコロナ克服を自信としたかのように、その独裁的傾向をさらに強め、企業に対して国家統制を強めている。さらには香港に残されていた、民主主義的な政治制度を抹殺しようとしている。これが経済競争に勝てれば何をしてもかまわないという、中国国民の選択なのだろうか。中国国民はそれほど愚かでは無いと思っているのだが、残念な現状である。
競争主義の行き着く先は独裁による競争が有利だということが予感され始めている。その焦りのようなものが、狂気のトランプ大統領の登場した要因なのだろう。競争に負けるぐらいなら、民主主義がないがしろにされても仕方がないという考えが芽生えている。
アメリカにはバイデン大統領になれば、中国に勝てないだろうという焦燥感のような物があるのかもしれない。一番で無ければならないという思想である。経済的価値がすべてに優先されるという、競争主義思想のゆがみである。競争が互いを高めるということが、本来の資本主義では無かったのか。
大統領選挙に不正があると叫ぶトランプの主張には明確な根拠は示されていない。ところが、多くのアメリカ人が不正があったとしている。さらに共和党の上院議員の多数が、不正があったとしている。それほど多くの権力のある人達が、不正選挙だというのであれば、いくらかの証拠が出現しても良さそうなものだ。
ところが一向に根拠は示されない。しかし、根拠が無くとも不正があったに違いないと思い込んでいる人が相当数いる。トランプが選挙に負けるわけがないという思い込みの方が勝っている。この奇妙なゆがみこそ、競争主義者が敗北を予感しての焦りの表れなのだろう。
世界の民主主義的な政権が経済的に後れを取る傾向の中で、果たして日本はどのような道を進むのだろうか。コロナは一つの試金石になっている。コロナを克服する国と、コロナで翻弄される国がある。コロナを克服できない国には政治のどこかに問題があるのだろうか。民主主義を重視する以上止むえないことなのだろうか。
健全な民主主義国家の場合、政府が正しい耳を持っていなければならない。新しい感染症の出現は、私も高病原性鳥インフルエンザの流行を見て、予見して警告を発していた。先見性のあるウイルス学者も警告を発していたことである。その警告を正しく聞く耳があれば、防御の準備を整えて、当初から防ぐことは出来た。
しかし、アベ政権は経済の遅れに目を奪われて、既得権益重視の考えを持っていた。一部の企業にすべてを任せば、より効率的に遅れている産業が活性化するという考えである。コロナ対策でも、電通が政府変わって補助金を支給するほか無いという状況である。行政システムのIT化の遅れが目立つ。前近代的な実情である。
国際競争力のある農業が主張されている。企業が農業分野に進出するように、様々な補助金を持って奨励した。そして一部成功した事例を持って、日本の実情に合わない、農業政策を推し進めた。その結果農業はより衰退する結果になった。
農業者がさらに減少し、外国人労働者を雇用する農業である。これならば、海外で企業が農業を行い、日本に輸出することとたいした違いは無い。日本の食料は日本人が日本の国土で生産することだ。自給率はさらに下がる結果になっている。
医療体制においては、老人人口の増加に体制が対応できないでいた。そこにコロナの蔓延である。諸外国に比べて、10分の1程度の感染者数で、すでに医療は限界に達した。しかも、この一年間の猶予の間に、何の手立てを打つことすら出来ない政治である。
世界各国でコロナワクチンの開発が進んだ。ところが、日本は完全に後れを取っている。新しい事業に取り組む意欲や能力が失われつつあるとするほかない。これはアベノミクスに置いても、新産業の創出が出来なかったことでも明らかである。
日本が立ち直るためには、この日本の現状を正しく見なければならない。今のままの日本では、この先世界の流れから取り残されて行くだけである。その立ち直りのためには、焦ってトランプのような狂気に走るのでは、国は崩壊に向かうだろう。
未来が不安だからと言って有能な政治家の出現を期待してはダメだ。めんどくさい民主主義を大切にする方がましなのだ。あの人が総理大臣をやってくれれば、なんとかなるのではないかと個人に期待することは止めた方が良い。
日本がもう一度、このすばらしい日本列島という自然豊かな国土を充分に生かして暮らすことだ。しばらく基盤を再点検する我慢が必要なのだろう。世界の競争に巻き込まれないことだと思う。まずそれぞれが生活の基盤を固めることだとおもう。
国は方向転換はなかなか出来ないのかもしれない。心ある者が、自分の暮らしの方角を変えることから始めるほか無いのだろう。